パワー半導体のスイッチングの原理について
はじめに
以前解説した通り、EVのモーターを制御しているのはインバーターであり、インバーターが電力変換を行う上で欠かせない存在が パワー半導体 である。つまり、EVはパワー半導体によって動かされている と言っても過言ではない。
そもそも、パワー半導体はどのような仕組みでスイッチのON/OFFを切り替えているのだろうか。今回はそんなパワー半導体の原理について解説していく。
パワー半導体(トランジスタ)の原理
これまで、インバーターを構成するスイッチング素子を広義の “パワー半導体” と表現してきたが、パワー半導体の中でもスイッチング素子として用いられるものは “トランジスタ” と呼ばれることが多い。
ここからは、代表的なトランジスタである バイポーラトランジスタ (Bipolar Junction Transistor; BJT) を例に挙げて、トランジスタの動作原理の解説を行う。ここで、NPN型バイポーラトランジスタ の構造を以下に示す。※PNP型も存在するがNPN型の方が一般的である。
バイポーラトランジスタには “ベース”, “コレクタ”, “エミッタ” の3つの端子がある。NPN型はエミッタがN型半導体、ベースがP型半導体、コレクタがN型半導体で構成されている。また、ベースのP型半導体は極めて薄いものである。P型半導体とN型半導体を接触させると、接合面で正電荷と負電荷の電気的中立を保つため、P型の正孔をN型の電子が埋めて、稼働する電荷が無い安定した領域ができる。この領域を 空乏層 と呼ぶ。
ここで、ベースに+、エミッタに-の電圧を加えると以下のような現象が起こる。
ベースの正電荷(正孔)がエミッタ方向に移動し、エミッタの負電荷(電子)がベース方向に移動する。すると、空乏層が狭くなり、正電荷と負電荷が出会って再結合を始める。この再結合が連続して起こり、ベースからエミッタに向かって電流が流れる。
この状態でさらに、コレクタ側に+、エミッタ側に-の、先ほどよりも高い電圧を加えると以下のようになる。
エミッタ側からベース側に向かって電子が流れ込み、ベース側の正孔と結びついたものは ベース電流 となる。しかし、ベースの厚さは非常に薄く、流れ込んだ電子のほとんどはベース層を突き抜けコレクタ内に拡散し、コレクタ電流となる。
すなわち、ベース-エミッタ間に微小な電流を流すことによって、コレクタ-エミッタ間に本流が流れるようになる。これがバイポーラトランジスタがONになる原理である。
インバーターとゲートドライブ回路
ここまで解説してきた通り、トランジスタは指でスイッチを叩く代わりに、電気信号によってスイッチのON/OFFを切り替えることができる。インバーターを構成するトランジスタに対して、このスイッチON/OFFの電気信号を送る回路を ゲートドライブ回路 と呼ぶ。
※ここまで、バイポーラトランジスタを例に挙げて原理の解説を行ってきたが、インバーターのスイッチング素子には MOSFET, IGBT というトランジスタが使用されることが多い。MOSFET, IGBT の場合 “ベース” は “ゲート” となり、ベース電流ではなくゲート電圧で駆動する。
以下に、トランジスタの回路図中の記号と、ゲートドライブ回路を含めた三相インバーターの回路図を示す。
ゲートドライブ回路は、目標とする出力に対して、電流・モーター角・モーター角速度などといった情報を制御回路(マイコン)が処理し、そこから生成されたゲート駆動信号をもとに、インバーターを構成する各トランジスタを適切にON/OFFする役割を担っている。
まとめ
パワー半導体(トランジスタ)は指でスイッチを叩く代わりに、電気信号によってスイッチのON/OFFを切り替えることができる。
インバーターを構成するトランジスタに対しては、ゲートドライブ回路が各トランジスタを適切にON/OFFする役割を担っている。
参考文献:
粉川昌巳 『絵ときでわかるパワーエレクトロニクス』 オーム社