MOSFETを誤動作させる『LC共振』
はじめに
人間の身体には、ウイルスやばい菌などの異物を排除して身体を正常に保とうとする、免疫反応という生体反応が備わっている。この免疫反応のお陰で、私たちは身体を健康に保つことができる。しかし、免疫反応は植物の花粉すらも異物として認識してしまい、くしゃみ・鼻水・涙などを駆使してこれらを体から追い出そうとする。この症状が花粉症となり、私たちを苦しむに至らしめる。
以前解説したパワー半導体のMOSFETには、配線の浮遊インダクタンス L、MOSキャパシタ C が備わっており、これらがLC共振という現象を引き起こす。このLC共振は、素子を誤動作させ、最悪素子を破壊に至らしめる。そこで今回は、このMOSFETを誤動作させる、LC共振について解説していく。
LC直列共振
インダクタLとコンデンサCが直列に接続されたLC直列回路に振動電圧を印加すると、LとCの大きさによって決まる固有振動数で振動し、大きな振動電圧が発生する。この現象をLC直列共振と呼ぶ。ここで、下図のようなLC直列回路において、スイッチSを①側にONにした場合の電流・電圧の変化について考えてみる。
t=0でスイッチSを①側にONにしたときの電流を i とすると、LとCの各電圧 vL, vC は次のようになる。
,
したがって、以下の式が成立する。
上式を、t=0 で i=0, コンデンサの電荷 q=0 の初期条件で i について解くと、以下のようになる。
これをグラフに表すと、下図のようになり、電流 i は固有の周波数 f=1/(2π√LC)[Hz] で正弦波的に振動する。この周波数 f を共振周波数という。
また、vL, vC は次のように決まる。
vL は電源電圧より大きくなることはないが、vC は最大で電源電圧の2倍にもなる。
MOSFETとLC共振
ここまでは、LC共振の原理について解説してきた。それでは、MOSFETとLC共振にはどのような関係があるのだろうか。ここから順を追って解説していく。
まず、MOSFETがターンOFFする際のdi/dtと、MOSFETのドレイン側の端子および配線の浮遊インダクタンスLによって、D-S間にサージ電圧が発生する。※サージについてはこちらの記事で解説している。
この時のサージ電圧は、MOSFETのスイッチング毎に発生する振動電圧となる。この振動電圧がMOSキャパシタCを通してゲートに伝わり、ゲート配線の浮遊インダクタンスLとの間にLC直列回路が形成される。
ここで、MOSFETのゲート内部抵抗は非常に小さく、D-S間の振動電圧の周波数が共振周波数と一致した場合、LC共振によりMOSFETのG-S間に大きな振動電圧が発生してしまう。この、MOSFET上で意図せず発生するLC共振現象は、寄生発振とも呼ばれる。
寄生発振がMOSFETに与える影響
EV向けのインバータは大電流を扱うため、許容電流の観点からMOSFETは並列で使用されることが多い。この時、MOSFETで発生する寄生発振は大変厄介な存在となる。
MOSFETの並列接続時には、素子の個体差によりスイッチOFF時の過渡電流の素子間のバランスが崩れやすくなり、遅くOFFする素子に電流が偏って流れることになる。この電流によってD-S間に大きなサージ電圧が発生し、G-S間により大きな振動電圧を発生させる。この振動電圧によって、MOSFETの誤動作、発振による素子の破壊を招く可能性がある。
これを防ぐために、MOSFETの並列使用時には素子特性のバラつきを最小限に抑える、MOSFETの各ゲートにゲート抵抗を挿入するなどといった対策が講じられている。
まとめ
■ LC直列共振
インダクタLとコンデンサCが直列に接続されたLC直列回路に振動電圧を印加すると、LとCの大きさによって決まる固有振動数で振動し、大きな振動電圧が発生する現象。
■ 寄生発振
MOSFETがターンOFFする際のdi/dtと、MOSFETのドレイン側の端子および配線の浮遊インダクタンスLによって、D-S間にサージ電圧が発生する。この振動電圧がMOSキャパシタCを通してゲートに伝わり、ゲート配線の浮遊インダクタンスLとの間にLC直列回路が形成され、意図せずLC共振現象が発生する。これを寄生発振と呼ぶ。
■ 寄生発振が与える影響と対策
寄生発振による影響はMOSFETの並列接続時に顕著になり、MOSFETの誤動作、素子の破壊を招く可能性がある。これを防ぐために、MOSFETの並列使用時には素子特性のバラつきを最小限に抑える、MOSFETの各ゲートにゲート抵抗を挿入するなどといった対策が講じられている。
参考文献:
粉川昌巳 『絵ときでわかるパワーエレクトロニクス』 オーム社