尖った電流を平らに均す『平滑コンデンサ 』
はじめに
以前こちらの記事で、インバーターの電力変換の原理を解説した際に平滑コンデンサという正体不明のコンデンサが回路図中に登場した。
しかし本文ではその役割については一切触れていなかった。そこで今回は、満を持してこの “平滑コンデンサ” の役割について解説していく。
電圧型インバーター
EVの駆動用に限らず、あらゆる家電・動力系用途において(電流型ではなく)電圧型インバーターが一般的である。理由は単純で、一定電流よりも一定電圧を用意する方が簡単であり、制御が容易だからである。ここで、電圧型三相インバーターの回路図を以下に示す。
電圧型インバーターは、直流電源の電圧をパワー半導体を介してそのまま出力に伝達する構成をとっており、直流電源と並列に大容量のコンデンサが接続されている。このコンデンサこそが、今回の主役 “平滑コンデンサ” である。
平滑コンデンサの役割
① バッテリーからの出力電圧を一定に保つ
パワー半導体がOFFになった直後、モーターのインダクタンスによって電流は今までと同じ方向に流れようとし、このとき逆流電流が還流ダイオードを通って直流電源へと帰還してくる。このような電流の不連続的な変化に関係なく、バッテリーからの出力電圧を一定に保つために、平滑コンデンサを直流電源と並列に接続することによって電源のインピーダンスを下げ、電圧源特性を持たせている。
② サージによるスイッチング素子の破壊を防ぐ
インバーターでの電力変換の際、スイッチのON/OFFが頻繁に切り替わるので、バッテリーから供給される直流電流はパルス状になり、その際にサージ電圧が発生してしまう。平滑コンデンサは、コンデンサの充放電の特性を活かしてこのパルス状の電流を平滑化し、発生するサージ電圧を抑え、素子の破壊を防いでいる。
■ サージ
異常な大きさの電流または電圧が瞬間的に発生することをサージといい、このとき流れる電流がサージ電流、電圧がサージ電圧である。※ちなみに、持続時間がナノ秒~マイクロナノ秒のものはスパイクと表現され、ミリ秒単位のものがサージと呼ばれている。ここで、誘導性負荷によって引き起こされるサージ電圧は以下のような式で表される。
LS はバッテリーからインバーターまでの配線の浮遊インダクタンス、VCC は電源電圧、di/dt は電流の時間変化を表している。平滑コンデンサは、スイッチOFF時の電流の変化 di/dt を緩やかにし(平滑化)、過大なサージ電圧 VCEP によるスイッチング素子の破壊を防いでいる。
③ 放射ノイズの低減
電流がパルス状に流れると、配線からは様々な周波数成分を持ったノイズが放射される。これらのノイズはカーラジオなどの車載機器に障害を与えてしまう。そこで、平滑コンデンサによりパルス状の電流を平滑化することで、発生する放射ノイズを低減している。
まとめ
電圧型インバーターにおいて、直流電源と並列に接続されている平滑コンデンサは、以下のような役割を担っている。
① バッテリーからの出力電圧を一定に保つ
② サージによるスイッチング素子の破壊を防ぐ
③ 放射ノイズの低減
参考文献:
深尾正 『電気機器・パワーエレクトロニクス通論』 オーム社
EnergyChord 『電圧形インバータと電流形インバータ』
日経XTECH 『コンデンサーで電流を平滑化』 山田好人 株式会社デンソー