インバーター設計の要 ― コンデンサの周波数特性とESR・ESLの振る舞いを読み解く
はじめに
以前【こちらの記事】で、インバーターを構成する受動素子(平滑コンデンサなど)の役割について解説したが、実際のインバーター設計において欠かすことのできないもう一つの重要な要素が「コンデンサの周波数特性」の理解である。 コンデンサは直流を遮断し交流を通す性質を持つが、周波数が高くなるにつれて理想的な振る舞いから逸脱していく。そこで今回は、コンデンサの周波数特性を決定づける「インピーダンスの大きさ 」と「等価直列抵抗(ESR)」について解説していく。
等価回路モデルと理想のコンデンサ
理想的なコンデンサのインピーダンス は、角周波数を
、静電容量を
とすると、以下のような式で表される。

この式からも分かる通り、インピーダンスの大きさ は周波数に反比例して直線的に減少していく。理想的なコンデンサはエネルギーの損失を全く持たないため、等価直列抵抗(ESR:Equivalent Series Resistance)はゼロである。

コンデンサのインピーダンス ESRの周波数特性とは?)
しかし、現実のコンデンサには、本来の静電容量 に加えて、誘電体や電極の損失による「等価直列抵抗(ESR)」と、電極構造やリード線などに起因する「等価直列インダクタンス(ESL:Equivalent Series Inductance)」が直列に寄生している。
これを直列等価回路モデルで表すと、現実のコンデンサのインピーダンス は以下のようになる。

この寄生成分(ESRとESL)が存在するため、実際のコンデンサの の周波数特性は、単調減少ではなくV字型(またはU字型)の曲線を描くことになる。

コンデンサの周波数特性の3つの領域
ここからは、実際のコンデンサにおけるインピーダンス とESRが、なぜV字型の曲線を描くのか、周波数帯ごとに順を追って解説していく。
① 低周波領域(容量性領域)
周波数が低い領域では、インダクタンス成分()の影響が極めて小さいため、
は理想のコンデンサとほぼ同じように周波数に反比例して減少する。
この帯域におけるESRは、主に誘電体の分極の遅れによる「誘電損失」が支配的であり、周波数に依存した値を示す。
② 共振点付近
周波数が高くなっていくと、静電容量 によるインピーダンス低下に対し、寄生インダクタンス ESL によるインピーダンス上昇が追いつき始める。
そして、虚数部が完全に打ち消し合う( となる)特定の周波数において、インピーダンス
は極小値をとる。この周波数を「自己共振周波数(SRF:Self-Resonant Frequency)」と呼ぶ。
このとき、虚数部がゼロになるため、インピーダンスは残った実数部のみとなり、以下の状態となる。

自己共振周波数では、ESRには誘電損失に加えて電極自体の抵抗(金属抵抗)などによる損失分が影響する。
③ 高周波領域(誘導性領域)
自己共振周波数を超えてさらに周波数が高くなると、素子の特性はコンデンサではなく「インダクタ(コイル)」として振る舞うようになる。
この高周波領域では静電容量 の影響がほぼ無視できるため、インピーダンス
はESLによって支配され、以下のように近似できる。

式が示す通り、 は周波数に比例して増加に転じる。また、この帯域におけるESRは、高周波特有の「表皮効果(電流が導体の表面に集中する現象)」や「近接効果」の影響により、周波数とともに急激に増加する。
まとめ
コンデンサの周波数特性において最も重要なのは、「周波数が高くなると寄生成分であるESRやESLの影響が無視できなくなる」という事実である。
特にインバーターなどのスイッチング電源回路が高周波化している現代において、コンデンサのノイズ吸収能力や発熱を評価する上で、ESRとESLは静電容量 と同等かそれ以上に重要なパラメータとなっている。
参考文献:
-
株式会社村田製作所 技術記事 『コンデンサのインピーダンス ESRの周波数特性とは?』
-
Electrical Information 『『等価直列抵抗(ESR)』と『等価直列インダクタンス(ESL)』とは?』
-
電気学会 『電気・電子材料』 オーム社
工業用温度センサの主役「熱電対」 ― ゼーベック効果と温度測定の原理を解き明かす
はじめに
温度変化は、物質の特性を変化させる主たる要因のひとつである。逆に言えば、ある物質の特性の変化を計測できれば、その時の温度変化を逆算できるということである。工業分野で最も多く使われている温度センサに「熱電対(ねつでんつい)」というものがある。今回は、この熱電対が温度を測るメカニズムについて詳しく解説していく。
ゼーベック効果
図1のように、二種類の異なる均質な金属導体 A, B の両端を接合して閉回路を作り、一方の接点(測温接点)の温度を 、もう一方の接点(基準接点)の温度を
と異なった温度に保つと、回路内に電圧が発生し、電流が流れる現象が起こる。これを「ゼーベック効果」という。

このとき発生する電圧を「熱起電力(ねつきでんりょく)」と呼ぶ。熱電対は、電流そのものではなく、回路の一部を開放してこの「熱起電力(電圧)」を測定することで温度を算出している。熱起電力の大きさは、2種類の導体の材質(A, B)と、両接点の温度差 によって決まる。
熱起電力の成り立ち(ペルチェ効果とトムソン効果)
熱起電力の発生メカニズムを物理学的に詳しく見ると、「ペルチェ効果」と「トムソン効果」という2つの熱電効果が組み合わさった結果として説明することができる。
-
ペルチェ効果
異なる2つの金属を接合して電流を流すと、接合部で熱の吸収または発熱が起こる現象。逆に言えば、接合部に温度を与えると、そこには温度に依存した電位差(ペルチェ起電力)が発生する。
-
トムソン効果
1つの均質な金属導体の中に温度勾配(温度差)がある場合、そこに電流を流すと導体内部で熱の吸収や発熱が起こる現象。これも逆に、温度勾配が存在する導体内部には、その温度差に応じた電位差(トムソン起電力)が発生することを意味する。
熱電対の回路全体で発生するゼーベック効果による熱起電力 は、これら2つの効果による微小な起電力を積分したものであり、厳密には各金属固有の「ゼーベック係数(
) 」を用いて以下の積分式で表される。

金属の材質が定まればゼーベック係数は温度のみの関数となるため、基準接点の温度 を一定に保ちさえすれば、熱起電力
を測定することで測温接点の温度
を正確に求めることができるのである。
熱電対による温度計測と基準接点補償
前述の通り、熱電対は2つの接点の「温度差()」によって発生する電圧を測定するセンサである。したがって、本当に知りたい測温接点の温度
を知るためには、基準接点の温度
が何度であるかを正確に把握・補償する必要があり、主に以下の2つのアプローチがとられる。
-
氷点補償(物理的な冷接点維持):基準接点(
)を氷水などに入れて物理的に0℃に維持し、温度表から直読する方法。極めて高精度だが、常に0℃を維持する手間がかかるため現場作業には不向きである。
-
基準接点補償(電気的な補償):基準接点(計器の端子部分など)の実際の温度をサーミスタや測温抵抗体などの別のセンサで測定し、その温度分の起電力を計算上で加算・補正する方法。現在の工業用計測器では、この方法が一般的となっている。
また、熱電対は使用する2種類の金属の組み合わせによって、JIS規格(日本産業規格)で主に以下の8種類が規定されている。
| +極 | -極 | 測定範囲 | |
| B型 | 白金ロジウム合金 (Rh30%) |
白金ロジウム合金 (Rh6%) |
600℃ ~ 1700℃ |
| R型 | 白金ロジウム合金 (Rh13%) |
白金 | 0℃ ~ 1600℃ |
| S型 | 白金ロジウム合金 (Rh10%) |
白金 | 0℃ ~ 1600℃ |
| N型 | ニッケル/クロム/ シリコンを主とした合金 |
ニッケル/シリコン を主とした合金 |
-200℃ ~ 1200℃ |
| K型 | ニッケル/クロム を主とした合金 |
ニッケル/アルミ を主とした合金 |
-200℃ ~ 1200℃ |
| E型 | ニッケル/クロム を主とした合金 |
銅/ニッケル を主とした合金 |
-200℃ ~ 800℃ |
| J型 | 鉄 | 銅/ニッケル を主とした合金 |
-40℃ ~ 750℃ |
| T型 | 銅 | 銅/ニッケル を主とした合金 |
-200℃ ~ 350℃ |
この中で工業用として特に汎用性が高いのが、安価で広範囲をカバーするK型と、低温領域の測定精度に優れたT型である。
まとめ
-
ゼーベック効果:二種類の均質な金属導体で閉回路を作り、両接点に温度差を与えると熱起電力(電圧)が発生する現象。
-
熱起電力の成り立ち:熱起電力はペルチェ効果とトムソン効果の複合的な結果として生じるものであり、ゼーベック係数を用いた積分で算出される。
-
熱電対:ゼーベック効果による起電力を測定して温度を逆算するセンサ。測定器側で基準接点補償を行うのが一般的。用途や温度域に応じてK型やT型など8種類の規格が使い分けられている。
参考文献:
-
JIS C 1602:2015 「熱電対」 日本産業規格
-
理化工業株式会社 技術解説 『熱電対の原理について』
-
株式会社キーエンス 計測器ラボ 『熱電対の基礎』
インバーターに潜む罠 ― MOSFETを破壊に導く「LC共振」と「寄生発振」のメカニズム
はじめに
人間の身体には、ウイルスや細菌などの異物を排除して身体を正常に保とうとする「免疫反応」という生体機能が備わっている。この免疫反応のおかげで、私たちは健康を維持することができる。しかし、この防衛システムが過剰に働き、植物の花粉すらも異物として認識し、くしゃみ・鼻水・涙などを駆使して体外へ追い出そうとすることがある。これが花粉症であり、私たちを苦しめる原因となっている。
実は、パワー半導体の世界にもこれと似たような現象が存在する。モーターを駆動するために欠かせないMOSFETには、配線が持つ「浮遊インダクタンス(L)」や、素子構造に由来する「寄生容量(C)」が不可避的に備わっている。これらが「LC共振」という現象を引き起こすと、正常なシステムが過剰反応を起こし、素子を誤動作させ、最悪の場合は破壊に至らしめてしまう。今回は、このMOSFETを誤動作の罠にはめる「LC共振(寄生発振)」のメカニズムについて解説していく。
※MOSFETの基本原理については【過去の記事】を参照されたい。
LC直列共振
インダクタ( )とコンデンサ(
)が直列に接続されたLC直列回路に、急激な電圧の変化(ステップ電圧)を与えたり、特定の固有振動数に一致する交流電圧を印加したりすると、電圧や電流が大きく振動する。この現象を「LC直列共振」と呼ぶ。
ここで、下図のようなLC直列回路において、直流電源(電圧 V)に繋がるスイッチSを でONにした場合の過渡現象について考えてみる。

でスイッチSをONにしたときの回路に流れる電流を
とすると、インダクタ
とコンデンサ
の各電圧
,
は次のようになる。

したがって、キルヒホッフの電圧則により以下の式が成立する。

上式を、 で電流
、コンデンサの電荷
の初期条件で
について解くと、以下のようになる。

これをグラフに表すと下図のようになり、電流 は固有の周波数
[Hz] で正弦波的に振動する。この周波数
を共振周波数という。

また、各素子にかかる電圧 ,
は次のように決まる。

上式から分かる通り、 は電源電圧 V より大きくなることはないが、
は振動のピーク時に最大で「電源電圧の2倍(2V)」にも達する。
MOSFETとLC共振
ここまでは、LC共振の基礎原理について解説してきた。それでは、MOSFETの動作とLC共振にはどのような関係があるのだろうか。
まず、MOSFETがターンOFFする際の急激な電流変化()と、ドレイン側の端子および配線が持つ浮遊インダクタンスによって、ドレイン・ソース(D-S)間に大きな「サージ電圧」が発生する。
このサージ電圧(急峻な電圧変化 )は、MOSFET内部の帰還容量(ミラー容量:
)を通して、ゲート回路側に変位電流として流れ込む。すると、ゲート配線の浮遊インダクタンス(
)と、ゲート・ソース間の入力容量(
)との間にLC直列回路が形成されてしまうのである。

もし、この寄生LC回路の共振周波数とサージ電圧の周波数成分が一致し、さらにゲート回路の内部抵抗(ダンピング成分)が小さすぎる場合、LC共振によってゲート・ソース(G-S)間に意図しない大きな振動電圧が発生してしまう。このように、MOSFETの寄生要素によって引き起こされる異常な発振現象を「寄生発振」と呼ぶ。
寄生発振がMOSFETに与える影響
EV向けのインバーターは大電流を扱うため、許容電流を稼ぐ目的で複数のMOSFETを「並列」で使用することが多い。このとき、寄生発振は極めて厄介な存在となる。
MOSFETを並列接続すると、素子ごとの特性のわずかな個体差や配線インダクタンスのアンバランスにより、ターンOFFのタイミングにズレが生じやすくなる。すると、最も遅くOFFする素子に一瞬だけ電流が極端に偏って流れ(電流集中)、その素子のD-S間に通常よりはるかに巨大なサージ電圧が発生する。
この巨大なサージ電圧が、前述の寄生発振メカニズムによってG-S間の振動電圧を激しく増幅させる。もしこのG-S間の振動電圧のピークがMOSFETの閾値電圧()を超えてしまうと、OFFになっているはずのMOSFETが勝手にONになってしまう「セルフターンオン(誤動作)」を引き起こす。これが上下アームの短絡(ショート)を誘発し、素子の熱破壊を招くのである。
これを防ぐために、MOSFETの並列使用時には「素子特性のバラつき( など)を最小限に抑える」ことや、LC回路の振動を減衰させるために「各MOSFETのゲートに個別のゲート抵抗(ダンピング抵抗)を挿入する」などの対策が必須として講じられている。
まとめ
- LC直列共振:インダクタ(
)とコンデンサ(
)が直列に接続された回路に急激な電圧変化を与えると、固有振動数で共振し、コンデンサには最大で入力電圧の2倍の電圧が発生する現象。
- 寄生発振:MOSFETターンOFF時のサージ電圧が帰還容量(
)を通してゲートに伝わり、ゲート配線の浮遊インダクタンスと入力容量(
)との間で引き起こす意図しないLC共振現象のこと。
- 寄生発振が与える影響と対策:MOSFETの並列接続時において、特性のバラつきによる電流集中が寄生発振を悪化させ、セルフターンオン(誤動作)や素子破壊を招く。これを防ぐため、素子の選別やゲート抵抗の適切な配置などの対策が行われる。
参考文献:
-
粉川昌巳 『絵ときでわかるパワーエレクトロニクス』 オーム社
-
アプリケーションノート 『MOSFET 並列接続(パワーMOSFET 寄生発振)』 東芝デバイス&ストレージ株式会社
-
電気学会 『パワーエレクトロニクス回路におけるスイッチング過渡現象』
EV時代の電源を支える「DC-DCコンバータ」 ― 3つの基本チョッパ回路の仕組みと数式
はじめに
EV(電気自動車)に限らず、自動車にはさまざまな車載電子機器が搭載されており、これらを駆動するためには一つのメインバッテリーから異なる直流電圧(12V、5V、3.3V、1.8Vなど)を作り出す必要がある。このように、ある直流(DC)電圧を異なる大きさの直流(DC)電圧に変換する装置を「DC-DCコンバータ」と呼ぶ。
DC-DC変換には複数の方式が存在するが、その基本となるのが「直流チョッパ回路」を用いたスイッチング方式である。今回は、DC-DC変換の根幹をなす3つの基本チョッパ回路の仕組みについて解説していく。
直流チョッパ回路とは
直流チョッパ回路とは、直流電圧を半導体スイッチの高速なON/OFFによって「切り刻み」、平均化することで別の大きさの直流電圧に変換する回路のことである(※チョッパ:chopperとは“切り刻むもの”という意味)。

直流電源と負荷の間にスイッチを接続し、スイッチをONにしている時間()とOFFにしている時間(
)の比率を変化させる(PWM制御)ことで、負荷に加わる平均電圧を自在にコントロールできる。スイッチのON/OFFは1秒間に数万〜数百万回という超高速で行われ、コンデンサ等で平滑化されるため、最終的な出力電圧はほぼ綺麗な直流となる。

このとき、スイッチの1周期 (
)に対するON時間の割合を通流率(デューティ比:
)と呼ぶ。

通流率 は必ず
の範囲の値をとる。 チョッパ回路には、出力電圧を電源電圧より下げる「降圧チョッパ回路」、上げる「昇圧チョッパ回路」、そして両方が可能な「昇降圧チョッパ回路」の3つの基本トポロジーが存在する。
降圧チョッパ回路
降圧チョッパ回路は、出力電圧を入力電圧よりも下げる回路である。

インダクタ(コイル) は電流の急激な変化を防ぎエネルギーを蓄えるためのもの、ダイオード
はスイッチOFF時にインダクタの電流を途切れさせないための「還流ダイオード(フリーホイールダイオード)」である。
スイッチON時:電流は「直流電源 → スイッチ → → 負荷」の経路で流れ、インダクタ
には電磁エネルギーが蓄積される。
スイッチOFF時: インダクタ は「電流を流し続けようとする性質」を持つため、蓄えられたエネルギーが「
→ 負荷 →
」の閉回路を通って放出(還流)される。このダイオードがないと電流の行き場がなくなり、過大なサージ電圧が発生してスイッチが破壊されてしまう。
入力電圧を 、出力電圧を
とすると、降圧チョッパの出力電圧は次のように表される。

デューティ比 は
以下であるため、必ず
となり、電圧は降圧される。
昇圧チョッパ回路
昇圧チョッパ回路は、出力電圧を入力電圧よりも上げる回路である。

コンデンサ は出力電圧を平滑化するためのもの、ダイオード
は出力側の電荷がスイッチを通じて逆流(放電)するのを防ぐためのブロックダイオードである。
スイッチON時:電流は「直流電源 → → スイッチ」の経路で流れ、電源をショートさせる形でインダクタ
に強力な電磁エネルギーが蓄積される(このとき負荷へはコンデンサ
から電力が供給される)。
スイッチOFF時:インダクタ に蓄えられていたエネルギー(起電力)が、電源電圧
に直列に「上乗せ(加算)」される形でダイオード
を通り、コンデンサ
と負荷へ流れ込む。
この構成により、出力電圧 は次のように表される。

ここで分母の () は常に1より小さな値(例:
なら分母は
)となるため、結果として
は
より大きくなり、出力電圧は昇圧される。
昇降圧チョッパ回路
昇降圧チョッパ回路は、通流率 の値によって降圧と昇圧の両方が可能な回路である。

スイッチON時:電流は「直流電源 → スイッチ → 」の経路で流れ、インダクタ
にエネルギーが蓄えられる。このときダイオード
は逆バイアスとなり、出力コンデンサの電荷がスイッチ側に逆流するのを防いでいる。
スイッチOFF時:インダクタ に蓄えられたエネルギーがコンデンサ
と負荷へ放出される。
出力電圧の大きさ(絶対値)は次のように表される。

のとき:
となり降圧される。
のとき:
となり昇圧される。
のとき:
となる。
なお、標準的な昇降圧チョッパ回路では、ダイオードの向きとインダクタの配置関係から、負荷に対して入力とは逆の極性(マイナスの電圧)が出力される(極性反転)という重要な特徴がある点に注意が必要である。
まとめ
直流チョッパ回路は、通流率(デューティ比: )を制御することで直流電圧を自在に変換する。
- 降圧チョッパ回路:出力電圧は
常に降圧動作となる。
- 昇圧チョッパ回路:出力電圧は
コイルの起電力を電源に上乗せすることで昇圧する。
- 昇降圧チョッパ回路:出力電圧(絶対値)は
を境に降圧と昇圧が切り替わる。出力極性は入力と反転する。
参考文献:
-
深尾正 『電気機器・パワーエレクトロニクス通論』 オーム社
-
粉川昌巳 『絵ときでわかるパワーエレクトロニクス』 オーム社
-
長谷川彰 『改訂 スイッチング・レギュレータ設計ノウハウ』 CQ出版社
EVインバーターの縁の下の力持ち ―「平滑コンデンサ(DCリンクコンデンサ)」の3つの役割
はじめに
以前【こちらの記事】でインバーターの電力変換の原理を解説した際、回路図中に「平滑コンデンサ」という正体不明の部品が登場した。
しかし、本文ではその役割について一切触れていなかった。そこで今回は満を持して、この「平滑コンデンサ(DCリンクコンデンサ)」が担う極めて重要な役割について解説していく。
電圧型インバーターと平滑コンデンサ
EVの駆動用に限らず、現代のモーター駆動用途においては(電流型ではなく)「電圧型インバーター」が広く用いられている。これは、バッテリー自体が電圧源(一定の電圧を出力する電源)であることや、電流型インバーターで必須となる巨大な直流リアクトル(コイル)が不要となり、システムを小型・低コスト化できるためである。
ここで、電圧型三相インバーターの回路図を以下に示す。

電圧型インバーターは、直流電源(バッテリー)の電圧をパワー半導体を介してスイッチングし、そのまま出力に伝達する構成をとっている。このとき、直流電源と並列に大容量のコンデンサが接続されている。このコンデンサこそが、今回の主役である「平滑コンデンサ(DCリンクコンデンサ)」である。
平滑コンデンサの役割
平滑コンデンサは、主に以下の3つの重要な役割を担っている。
① バッテリーからの直流電圧を安定化(リプル電流の吸収)
パワー半導体がOFFになった直後、モーターのインダクタンス(コイル成分)によって電流は今までと同じ方向に流れようとし、還流ダイオードを通って直流電源側へ逆流してくる。また、インバーターは高速でスイッチングを行っているため、バッテリーから引き出される電流は激しいパルス状(断続的)になる。

平滑コンデンサは、充放電を瞬時に行うことでこれらの変動する電流(リプル電流)を吸収する。これにより、電源のインピーダンス(交流的な抵抗)を下げ、インバーターの入力電圧が不連続な電流変化の影響を受けずに「一定の電圧(電圧源特性)」を保てるようにしている。
② サージ電圧によるスイッチング素子の破壊を防ぐ
異常な大きさの電圧が瞬間的に発生することを「サージ電圧」という。(※持続時間がナノ秒〜マイクロ秒レベルのものをスパイク、ミリ秒単位のものをサージと区別して呼ぶこともあるが、インバーターのON/OFF時に発生するものは総じてスイッチングサージと呼ばれる)。

インバーターのスイッチOFF時に発生するサージ電圧 VCEPは、以下の式で表される。

もしバッテリーとインバーターが長いケーブルで直接繋がれているだけだと、配線が持つ浮遊インダクタンス(Ls)が大きくなり、スイッチOFF時の急激な電流変化(di/dt)と掛け合わさって、パワー半導体を破壊するほどの巨大なサージ電圧が発生してしまう。
平滑コンデンサをパワー半導体の「ごく近く」に配置すると、パルス状の高周波電流はバッテリーからの長い配線を経由せず、コンデンサとパワー半導体の間の短いループだけで完結して流れるようになる。つまり、平滑コンデンサは配線のインダクタンス(Ls)の影響を切り離し(極小化し)、過大なサージ電圧の発生を根本から抑え込む役割を果たしているのである。
③ EMI(電磁妨害)ノイズの放射低減
電流がパルス状に流れると、その配線はアンテナのように働き、様々な周波数成分を持った電磁ノイズ(放射ノイズ)を周囲にまき散らす。このノイズは、カーラジオや他の車載電子機器に誤動作や障害を与える原因となる。
前述の通り、平滑コンデンサがパルス状の高周波電流をインバーター内部の短いループに閉じ込め、バッテリーへ続く長い配線には平滑化された(滑らかな)直流電流だけが流れるようにすることで、アンテナ効果による放射ノイズを大幅に低減している。
まとめ
電圧型インバーターにおいて、直流電源と並列に接続されている平滑コンデンサ(DCリンクコンデンサ)は、インバーターを正常かつ安全に動作させるための心臓部とも言える部品であり、以下のような役割を担っている。
-
直流電圧の安定化:パルス状の電流を吸収し、インバーター入力部の電圧変動を抑える。
-
サージ電圧の抑制:配線インダクタンスの影響を極小化し、素子破壊を防ぐ。
-
ノイズの低減:高周波電流をループ内に閉じ込め、周囲への電磁ノイズ放射を防ぐ。
参考文献:
-
深尾正 『電気機器・パワーエレクトロニクス通論』 オーム社
-
日経XTECH 『コンデンサーで電流を平滑化』 山田好人 株式会社デンソー
-
電気学会 『パワーエレクトロニクス回路』 オーム社
EVインバーターの主役たち ― MOSFETとIGBTの構造と動作原理を解き明かす
はじめに
こちらの記事で、パワー半導体(トランジスタ)の動作原理を、代表的な「バイポーラトランジスタ(BJT)」を例に挙げて解説した。
しかし、バイポーラトランジスタにはスイッチング速度が遅いという弱点があり、現代のEV駆動用インバーターの主役としてはあまり使われていない。代わって主流となっているのが「MOSFET」と「IGBT」と呼ばれるトランジスタである。今回は、EVの性能を支えるこれら2つのパワー半導体の特徴と動作原理について解説していく。
MOSFET(金属酸化膜半導体FET)
バイポーラトランジスタ(BJT)は、ベース電流によってコレクタ電流を制御する「電流制御型」のトランジスタであった。これに対し、ゲートに加える電圧によって出力電流を制御する「電圧制御型」のトランジスタを「電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)」と呼ぶ。 中でもEVで多用されるMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor FET)は、ゲート電極と半導体の間に二酸化シリコン(SiO₂)などの絶縁膜(酸化膜)を設けた構造を持つ。消費電力が少なくスイッチング速度が極めて速い反面、シリコン(Si)材料を用いた場合、高耐圧化するほど内部の電気抵抗(オン抵抗)が高くなってしまうという特性がある。
ここで、Nチャネル型MOSFET(エンハンスメント型)の構造を以下に示す。
※Pチャネル型やデプレッション型も存在するが、パワーエレクトロニクス市場で使用される大半はNチャネルのエンハンスメント型である。

MOSFETには「ゲート」「ドレイン」「ソース」の3つの端子がある。ゲート電極の直下は絶縁層、そしてP型半導体(Pウェル)の三層構造となっており、絶縁層が誘電体として働く平行平板コンデンサ(MOSキャパシタ)とみなすことができる。
ここで、ソースに対してゲートにプラス(+)の電圧を加えると以下のような現象が起こる。

平行平板コンデンサの原理により、ゲート電極に引き寄せられる形で、P型半導体の表面付近に少数キャリアである電子が集まる。これにより、P型でありながら局所的にN型のように振る舞う「反転層(Nチャネル)」が形成され、ドレインとソースの間が電気的に繋がる。
この状態でさらに、ドレイン側にプラス(+)、ソース側にマイナス(-)の電圧を加えると以下のようになる。

形成されたNチャネルを通って、電子がソースからドレインへと移動できるようになる。結果として、ドレインからソースに向かってドレイン電流(ID)が流れる。 すなわち、ゲートに正の電圧を印加してチャネルを開通させることによって、ドレイン-ソース間に本流を流すことができる。これが、MOSFETがONになる原理である。
IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)
IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)は、入力段に電圧制御型のMOSFET、出力段に大電流を流せるバイポーラトランジスタを組み合わせた複合素子である。 これにより、MOSFETの「電圧で簡単に駆動できる」長所と、BJTの「高耐圧でも大電流を流せる(低オン抵抗)」長所を兼ね備えている。スイッチング速度はMOSFETには劣るもののBJTよりは速く、長らく大電力スイッチング素子の中心的な存在となっている。
ここで、Nチャネル型IGBTの構造を以下に示す。

IGBTには「ゲート」「コレクタ」「エミッタ」の3つの端子がある。MOSFETのドレイン側に相当する部分がP型半導体(P+コレクタ層)に置き換わった構造をしており、ゲート部分はMOSFETと同様に絶縁されている。
ここで、エミッタに対してゲートにプラス(+)の電圧を加えると以下のような現象が起こる。

MOSFETと全く同じ原理で、ゲート電圧によってP型半導体表面に反転層(Nチャネル)が形成され、エミッタ(N+層)とNドリフト層が導通する。
この状態でさらに、コレクタ側にプラス(+)、エミッタ側にマイナス(-)の電圧を加えると以下のようになる。

チャネルを通ってエミッタからNドリフト層へ電子が流れ込む。すると、コレクタ側のP+層とNドリフト層の間が順バイアス状態となり、コレクタからNドリフト層へ向かって大量の「正孔(ホール)」が注入される。 この電子と正孔がNドリフト層内に共存することで、高い耐圧を持たせるための厚い層であっても電気抵抗が劇的に下がる「伝導度変調(Conductivity Modulation)」という物理現象が起こる。これにより、非常に低いオン抵抗で大電流(コレクタ電流 IC)を流すことができるのである。これがIGBTがONになる原理である。
まとめ
バイポーラトランジスタ(BJT)、MOSFET、IGBTの特性を比較すると以下のようになる。
| BJT | MOSFET | IGBT | |
| 端子 |
ベース コレクタ エミッタ |
ゲート ドレイン ソース |
ゲート コレクタ エミッタ |
| 制御 | 電流制御 | 電圧制御 | 電圧制御 |
| 許容電流 | 〇 | △(SiCなら◎) | ◎ |
| スイッチング速度 | △ | ◎ | 〇 |
| オン抵抗 | 〇 | △(SiCなら◎) | ◎ |
-
MOSFET:電圧制御型のトランジスタ。スイッチング速度が極めて速いが、Si材料では高耐圧になるほどオン抵抗が高くなる。近年は物性に優れるSiC(炭化ケイ素)を用いることで、高耐圧・低抵抗・超高速を両立したSiC-MOSFETがEVの最新トレンドとなっている。
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IGBT:MOSFETとBJTの良さを兼ね備えた複合素子。伝導度変調の恩恵により、高耐圧でもオン抵抗は低く抑えられる。スイッチング速度はMOSFETに及ばないが、Si半導体の高耐圧領域において長らく中心的な役割を担っている。
参考文献:
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粉川昌巳 『絵ときでわかるパワーエレクトロニクス』 オーム社
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半導体デバイス教科書執筆プロジェクト 『入門者へのフリー教科書』 山形大学
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電気学会 『パワーエレクトロニクス回路』 オーム社
EVインバーターを動かすスイッチの正体 ― パワー半導体の動作原理とゲートドライブ回路
はじめに
【こちらの記事】で解説した通り、EVのモーターを制御しているのはインバーターであり、そのインバーターが電力変換を行う上で欠かせない存在が「パワー半導体」である。つまり、EVの心臓部たるモーターは、パワー半導体によって動かされていると言っても過言ではない。
そもそも、パワー半導体はどのような仕組みで、機械的な接点を持たずに大電力の「スイッチのON/OFF」を切り替えているのだろうか。今回は、パワー半導体の基礎的な動作原理について解説していく。
パワー半導体(トランジスタ)の原理
これまで、インバーターを構成するスイッチング素子を広義の「パワー半導体」と表現してきたが、この用途で用いられる素子の代表格が「トランジスタ」である。
ここではトランジスタの基礎を理解するため、歴史的にも代表的な「バイポーラトランジスタ(BJT:Bipolar Junction Transistor)」を例に挙げて動作原理を解説する。一般的なNPN型バイポーラトランジスタの構造を以下に示す(※PNP型も存在するが、NPN型が一般的である)。

バイポーラトランジスタには「ベース(B)」「コレクタ(C)」「エミッタ(E)」と呼ばれる3つの端子がある。NPN型は、エミッタがN型半導体、ベースがP型半導体、コレクタがN型半導体というサンドイッチ構造で構成されている。また、真ん中のベース(P型半導体)は極めて薄く作られている。 異なる性質のP型半導体とN型半導体を接触させると、接合面ではP型の正電荷(正孔:ホール)とN型の負電荷(電子)が引き合って結合し、電気的に中立で電荷が移動できない安定した領域ができる。この絶縁された壁のような領域を「空乏層」と呼ぶ。
ここで、ベースにプラス(+)、エミッタにマイナス(-)の電圧(順バイアス)を加えると以下のような現象が起こる。

ベース内の正孔がエミッタ方向に押し出され、エミッタ内の電子がベース方向に移動する。これによりベース・エミッタ間の空乏層の壁が狭くなり、電子と正孔が出会って次々と再結合を始める。この再結合が連続して起こることで、ベースからエミッタに向かってわずかな電流が流れるようになる。
この状態でさらに、コレクタ側にプラス(+)、エミッタ側にマイナス(-)の、先ほどよりも高い電圧を加えると以下のようになる。

エミッタからベース(P型領域)へ大量の電子が注入される。注入された電子の一部はベース内の正孔と結びついて(再結合して)「ベース電流」となる。 しかし、ベース層は極めて薄く作られているため、圧倒的多数の電子は再結合する前にベース領域を拡散によって通過してしまう。そして、ベースとコレクタの接合部に存在する強い電界(逆バイアス)によって、電子はコレクタ側へ勢いよく引き込まれる(ドリフト)。これが大きな「コレクタ電流」となるのである。
すなわち、「ベースとエミッタ間に微小な電流を流すことをきっかけ(トリガー)として、コレクタとエミッタ間に本流となる大電流が流れる」という仕組みである。これが、バイポーラトランジスタがONになる原理である。
インバーターとゲートドライブ回路
ここまで解説してきた通り、トランジスタは人間の指で物理的なスイッチを叩く代わりに、電気的な信号によってスイッチのON/OFFを切り替えることができるデバイスである。
なお、EVの主駆動インバーターで実際に使用されているトランジスタは、電流駆動型のBJTではなく、「MOSFET」や「IGBT」と呼ばれる素子が主流である。MOSFETやIGBTの場合、制御端子はベースではなく「ゲート」と呼ばれ、電流ではなく「電圧」を印加することによって駆動(ON/OFF)する「電圧駆動型」の特性を持つ。しかし、「小さな電気信号で大きな電力を制御する」という根本的なスイッチングの概念は同じである。
インバーターを構成するこれらのトランジスタに対して、スイッチON/OFFのための的確な電気信号を送る役割を果たすのが「ゲートドライブ回路(ゲートドライバ)」である。 以下に、トランジスタの回路図中の記号と、ゲートドライブ回路を含めた三相インバーターの全体図を示す。


EVの制御回路(マイコン)は、ドライバーのアクセル操作やモーターの回転角・速度などの情報を処理し、目標とする出力に合わせた微細なPWM(パルス幅変調)信号を生成する。しかし、このマイコンからの信号は非常に微弱であるため、そのままでは大電流を扱う巨大なパワー半導体を直接動かすことはできない。
そこで「ゲートドライブ回路」が、マイコンから受け取った微小な信号を、パワー半導体を高速かつ確実にON/OFFできるだけの十分な電圧・電流レベルに「増幅」して伝える役割を担っている。また、高電圧が流れるパワー回路(インバーター側)と、低電圧で動くマイコン回路との間を電気的に「絶縁」し、マイコンを高圧サージから保護するという極めて重要な安全機能も併せ持っている。
まとめ
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パワー半導体(トランジスタ)は、物理的な接点を持たず、小さな電気信号をトリガーとして大電力スイッチのON/OFFを切り替えることができる。
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バイポーラトランジスタ(BJT)は微小なベース電流で大きなコレクタ電流を制御する。一方、現代のEVで主流のMOSFETやIGBTは、ゲート電圧によって制御される(電圧駆動型)。
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ゲートドライブ回路は、マイコンが生成した微弱な制御信号を電力増幅し、高電圧のパワー半導体を確実かつ安全(絶縁)にON/OFFさせる役割を担っている。
参考文献:
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粉川昌巳 『絵ときでわかるパワーエレクトロニクス』 オーム社
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アイアール技術者教育研究所 『3分でわかる技術の超キホン トランジスタの原理と電子回路における役割』
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島田和浩 『パワーエレクトロニクス入門』 コロナ社