『等価直列抵抗(ESR)』とコンデンサの周波数特性
はじめに
以前こちらの記事で、インバーターに構成されている受動素子(平滑コンデンサ)について解説したが、コンデンサの周波数特性を理解することは、インバーターの設計時に欠かすことのできない重要な要素であるといえる。そこで今回は、コンデンサの周波数特性のなかで、インピーダンスの大きさ|Z|と等価直列抵抗(ESR)について解説していく。
等価直列抵抗(ESR)
理想のコンデンサのインピーダンスZは、角周波数をω、コンデンサの静電容量をCとすると、以下のような式で表わされる。
式より、インピーダンスの大きさ|Z|は下図のように周波数に反比例して減少する。理想的なコンデンサでは損失が無いため、等価直列抵抗 (Equivalent Series Resistance: ESR) は0となる。
しかし、実際のコンデンサには、容量成分C以外に誘電体や電極などの損失による抵抗Rや、電極やリード線などによる寄生インダクタンスLが存在する。このため、|Z|の周波数特性は下図が示すようにV字のような曲線となる。
コンデンサの周波数特性
ここからは、コンデンサのインピーダンスの大きさ|Z|と等価直列抵抗(ESR)が、上の図のような形の曲線となる理由を順を追って解説していく。
① 低周波領域
周波数が低い領域における|Z|は、理想のコンデンサと同じように周波数に反比例して減少する。ESRは、誘電体の分極の遅延による誘電損失に相当する値を示す。
② 共振点付近
周波数が高くなると、ESLやESRの影響で|Z|の挙動は理想のコンデンサから外れ、極小値を示す。|Z|が極小値となる周波数を自己共振周波数と呼び、このとき |Z|=ESR となる。自己共振周波数を超えると、素子の特性がコンデンサからインダクタに変わり、|Z|は増加に転じる。自己共振周波数より低い領域を容量性領域と呼び、高い領域を誘導性領域と呼ぶ。ESRについては、誘電損失に加えて電極起因による損失分が影響する。
③ 高周波領域
共振点から更に高い周波数領域において|Z|は、寄生インダクタンスLによって特性が決まる。高周波領域の|Z|は、以下の式によって近似することができ、周波数に比例して|Z|は増加する。ESRについては、電極の表皮効果や近接効果の影響が現れてくる。
まとめ
ここまで、コンデンサの周波数特性について説明したが、重要なのは、寄生成分である等価直列抵抗(ESR)は、周波数が高くなると無視できないということである。コンデンサが高周波で使用されるケースが多くなっているのに伴い、ESRとESLは静電容量Cと同様に、コンデンサの性能を示す重要なパラメータとなっている。
参考文献:
技術記事 『コンデンサのインピーダンス ESRの周波数特性とは?』 村田製作所
Electrical Information 『『等価直列抵抗(ESR)』と『等価直列インダクタンス(ESL)』とは?【コンデンサ】』
『熱電対』の原理とその選び方
はじめに
温度変化は、物質の特性を変化させる主たる要因のひとつである。逆に考えると、ある物質の特性の変化を計測するとその時の温度変化が求まるということである。工業用で最も多く使われている温度センサに、熱電対というものがある。今回はこの熱電対の原理について詳しく解説していく。
ゼーベック効果
図1に関して、二種類の均質な金属導体 A, B で閉回路を作り、測温接点の温度をT1、基準接点の温度をT2とするとき、以下のような現象が起こる。
・T1 > T2 なら回路に電流iが流れる
・T1 = T2 なら流れない
・T1 < T2 なら逆向きの電流iが流れる
これをゼーベック効果という。
電流が流れるということは、起電力が発生しているということであり、これを熱起電力という。熱起電力の大きさは2種類の導体の材質(A, B)と接合点の温度(T1, T2)で決まる。
熱起電力
熱起電力について詳しくみてみると、ペルチェ効果によるものと、トムソン効果によるものとの和とみることができる。それぞれ順を追って解説していく。
■ ペルチェ効果
ペルチェ効果とは、異なる金属や半導体を接合し、そこに電圧をかけて電流を流すと熱の吸収(冷却)・放熱(発熱)が起こる現象である。ここで、図2の閉回路でのペルチェ効果によって発生する熱起電力E1は、以下の式で表される。
E1=ΠAB*T1+ΠBA*T2=ΠAB*T1-ΠAB*T2
※ΠABは金属A, Bに対するペルチェ係数
■ トムソン効果
トムソン効果とは、同種の金属内において温度勾配がある場合、そこに電流を流すと、+側が放熱・-側が吸熱を生じさせる現象である。ここで、図2の閉回路でトムソン効果によって発生する熱起電力E2は、以下の式で表される。
E2=μA(T2-T1)+μB(T1-T2)+(μB-μA)T1-(μB-μA)T2
※μA, μBは金属A、金属Bのトムソン係数
熱起電力=ペルチェ効果+トムソン効果 なので、熱起電力Eは以下の式で表される。
E=E1+E2=ΠAB(T1-T2)+(μB-μA)(T1-T2)
ΠAB, μA, μB は金属の材質で定まるので、E は T1, T2 のみで決まる関数となる。つまり上式より、熱起電力Eを測定すれば、T1, T2 が求まることがわかる。
熱電対
熱電対は、前述のゼーベック効果により測温接点T1の温度と基準接点T2の温度差ΔTで発生する電圧を測定し、ΔTを知ることができるものである。ΔTから本当に知りたいT1を求めるために、以下のような二つの方法がある。
① 基準接点(T2)を0℃にして温度を直読する方法(冷接点補償)
② 基準接点(T2)の気温を測り温度差ΔTに加算する方法(基準接点補償)
①ように冷接点を測定中0°Cに維持するのはとても大変であり、現実的ではない。そこで、②のように端子付近の温度を測定しそこを基準とする、基準接点補償という方法が一般的である。
また、熱電対には二種類の金属の組み合わせ方で以下の8種類がある。
+極 | -極 | 測定範囲 | |
B型 | 白金ロジウム合金 (ロジウム30%) |
白金ロジウム合金 (ロジウム6%) |
+600℃ ~ +1700℃ |
R型 | 白金ロジウム合金 (ロジウム13%) |
白金 | 0℃ ~ +1100℃ |
S型 | 白金ロジウム合金 (ロジウム10%) |
白金 | +600℃ ~ +1600℃ |
N型 | ニッケル/クロム/ シリコンを主とした合金 |
ニッケル/シリコン を主とした合金 |
ー200℃ ~ +1200℃ |
K型 | ニッケル/クロム を主とした合金 |
ニッケル/アルミ を主とした合金 |
ー200℃ ~ +1200℃ |
E型 | ニッケル/クロム を主とした合金 |
銅/ニッケル を主とした合金 |
ー200℃ ~ +900℃ |
J型 | 鉄 | 銅/ニッケル を主とした合金 |
ー40℃ ~ +750℃ |
T型 | 銅 | 銅/ニッケル を主とした合金 |
ー200℃ ~ +350℃ |
この中で工業用としてよく用いられるのが、K型とT型である。K型熱電対は、他の貴金属熱電対と比較すると安価であり、耐熱・耐食性も高い。T型熱電対は、低温領域 (-200℃~+300°C) の起電力特性が良く、低温領域を精度良く測定したい場合に活躍する。
まとめ
■ ゼーベック効果
二種類の均質な金属導体で閉回路を作りさらにそこに温度差があると、熱起電力が発生するという現象。熱起電力=ペルチェ効果+トムソン効果
■ 熱電対
ゼーベック効果により発生した電圧を測定し、ΔTを知ることができるもの。金属の組み合わせ方で計8種類の熱電対が存在し、中でもK型熱電対とT型熱電対が一般的である。
参考文献:
MOSFETを誤動作させる『LC共振』
はじめに
人間の身体には、ウイルスやばい菌などの異物を排除して身体を正常に保とうとする、免疫反応という生体反応が備わっている。この免疫反応のお陰で、私たちは身体を健康に保つことができる。しかし、免疫反応は植物の花粉すらも異物として認識してしまい、くしゃみ・鼻水・涙などを駆使してこれらを体から追い出そうとする。この症状が花粉症となり、私たちを苦しむに至らしめる。
以前解説したパワー半導体のMOSFETには、配線の浮遊インダクタンス L、MOSキャパシタ C が備わっており、これらがLC共振という現象を引き起こす。このLC共振は、素子を誤動作させ、最悪素子を破壊に至らしめる。そこで今回は、このMOSFETを誤動作させる、LC共振について解説していく。
LC直列共振
インダクタLとコンデンサCが直列に接続されたLC直列回路に振動電圧を印加すると、LとCの大きさによって決まる固有振動数で振動し、大きな振動電圧が発生する。この現象をLC直列共振と呼ぶ。ここで、下図のようなLC直列回路において、スイッチSを①側にONにした場合の電流・電圧の変化について考えてみる。
t=0でスイッチSを①側にONにしたときの電流を i とすると、LとCの各電圧 vL, vC は次のようになる。
,
したがって、以下の式が成立する。
上式を、t=0 で i=0, コンデンサの電荷 q=0 の初期条件で i について解くと、以下のようになる。
これをグラフに表すと、下図のようになり、電流 i は固有の周波数 f=1/(2π√LC)[Hz] で正弦波的に振動する。この周波数 f を共振周波数という。
また、vL, vC は次のように決まる。
vL は電源電圧より大きくなることはないが、vC は最大で電源電圧の2倍にもなる。
MOSFETとLC共振
ここまでは、LC共振の原理について解説してきた。それでは、MOSFETとLC共振にはどのような関係があるのだろうか。ここから順を追って解説していく。
まず、MOSFETがターンOFFする際のdi/dtと、MOSFETのドレイン側の端子および配線の浮遊インダクタンスLによって、D-S間にサージ電圧が発生する。※サージについてはこちらの記事で解説している。
この時のサージ電圧は、MOSFETのスイッチング毎に発生する振動電圧となる。この振動電圧がMOSキャパシタCを通してゲートに伝わり、ゲート配線の浮遊インダクタンスLとの間にLC直列回路が形成される。
ここで、MOSFETのゲート内部抵抗は非常に小さく、D-S間の振動電圧の周波数が共振周波数と一致した場合、LC共振によりMOSFETのG-S間に大きな振動電圧が発生してしまう。この、MOSFET上で意図せず発生するLC共振現象は、寄生発振とも呼ばれる。
寄生発振がMOSFETに与える影響
EV向けのインバータは大電流を扱うため、許容電流の観点からMOSFETは並列で使用されることが多い。この時、MOSFETで発生する寄生発振は大変厄介な存在となる。
MOSFETの並列接続時には、素子の個体差によりスイッチOFF時の過渡電流の素子間のバランスが崩れやすくなり、遅くOFFする素子に電流が偏って流れることになる。この電流によってD-S間に大きなサージ電圧が発生し、G-S間により大きな振動電圧を発生させる。この振動電圧によって、MOSFETの誤動作、発振による素子の破壊を招く可能性がある。
これを防ぐために、MOSFETの並列使用時には素子特性のバラつきを最小限に抑える、MOSFETの各ゲートにゲート抵抗を挿入するなどといった対策が講じられている。
まとめ
■ LC直列共振
インダクタLとコンデンサCが直列に接続されたLC直列回路に振動電圧を印加すると、LとCの大きさによって決まる固有振動数で振動し、大きな振動電圧が発生する現象。
■ 寄生発振
MOSFETがターンOFFする際のdi/dtと、MOSFETのドレイン側の端子および配線の浮遊インダクタンスLによって、D-S間にサージ電圧が発生する。この振動電圧がMOSキャパシタCを通してゲートに伝わり、ゲート配線の浮遊インダクタンスLとの間にLC直列回路が形成され、意図せずLC共振現象が発生する。これを寄生発振と呼ぶ。
■ 寄生発振が与える影響と対策
寄生発振による影響はMOSFETの並列接続時に顕著になり、MOSFETの誤動作、素子の破壊を招く可能性がある。これを防ぐために、MOSFETの並列使用時には素子特性のバラつきを最小限に抑える、MOSFETの各ゲートにゲート抵抗を挿入するなどといった対策が講じられている。
参考文献:
粉川昌巳 『絵ときでわかるパワーエレクトロニクス』 オーム社
電圧を切り刻む『直流チョッパ回路』の仕組み
はじめに
EVに限らず、自動車には様々な車載機器が搭載されており、これらを駆動するためには一つの電源からさまざまな直流電圧(12V、5V、3.3V、2.5V、1.8V、1.3V、1.0V、0.8V…)を得る必要がある。このように、直流 (DC) を異なる電圧の直流 (DC) に変換する装置はDC-DCコンバータと呼ばれる。DC-DC変換には様々な方式が存在するが、代表的な方式として直流チョッパ回路方式が挙げられる。今回はこのDC-DC変換の基本となる、直流チョッパ回路の仕組みについて解説していく。
直流チョッパ回路とは
直流チョッパ回路とは、直流電圧をスイッチのON/OFFによって切り刻んで他の大きさの直流電圧に変換する回路のことである。※チョッパ (chopper) とは “切り刻むもの” という意味である。以下に、直流チョッパ回路の回路図を簡略化したものを示す。
直流電源に負荷と直列にスイッチを接続し、スイッチをONしている時間とOFFしている時間の比を変化させると、負荷に加わる平均電圧を変化させることができる。スイッチのON/OFFは非常に高速に行われるので、出力電圧はほぼ直流に近い形になる。
このとき、出力電圧V0は次のように表される。
TON/(TON+TOFF) を通流率という。上の式では 通流率≦1 となるので、出力電圧 VR は電源電圧 V1 より小さくなる。このようなDCチョッパ回路を 降圧チョッパ回路 という。この他に、出力電圧を電源電圧よりも大きくする 昇圧チョッパ回路 、これら二つを組み合わせた 昇降圧チョッパ回路 が存在する。
降圧チョッパ回路
降圧チョッパ回路は、出力電圧を下げる直流チョッパ回路である。以下に、降圧チョッパ回路の回路図を示す。
インダクタ L は出力電流を平滑化するためのもの、ダイオード D はスイッチング素子 Tr を保護するための還流ダイオードである。
Tr がONの間、電流 i1 は 直流電源 → Tr → L → 負荷 R の経路で流れ、インダクタ L には電磁エネルギーが蓄積される。
次に、Tr をOFFした場合、L のインダクタンスによって電流はこれまでと同じ方向へ流れ続けようとする。これによって、L → 負荷 R → D の経路で循環電流 i2 が流れる。
このとき、TON・TOFF における各部の電圧、電流の波形は以下のようになる。
出力電圧 VR は次のように表される。
通流率≦1 となるので、出力電圧 VR は電源電圧 V1 より小さくなり、降圧する。
昇圧チョッパ回路
昇圧チョッパ回路は、出力電圧を上げるDCチョッパ回路である。以下に、昇圧チョッパ回路の回路図を示す。
コンデンサ C は出力電圧を平滑化するためのもの、ダイオード D はコンデンサが Tr を通じて放電してしまわないようにする放電防止用のダイオードである。
Tr がONの間、電流 i1 は 直流電源 → L → Tr の経路で流れ、インダクタ L には電磁エネルギーが蓄積される。
次に、Tr をOFFした場合、L に蓄えられていた電磁エネルギーが電源電圧 V1 に加算され、電流 i2 がダイオード D を通ってコンデンサ C と負荷 R に流れる。
このとき、TON・TOFF における各部の電圧、電流の波形は以下のようになる。
また、出力電圧 VR は次のように表される。
通流率≧1 となるので、出力電圧 VR は電源電圧 V1 より大きくなり、昇圧する。
昇降圧チョッパ回路
昇降圧チョッパ回路は、TON・TOFF の値によって降圧動作も昇圧動作も可能な直流チョッパ回路である。以下に、昇降圧チョッパ回路の回路図を示す。
コンデンサ C は出力電圧を平滑化するためのもの、ダイオード D は電源と負荷 R が短絡するのを防ぐためのものである。
Tr がONの間、電流 iL は 直流電源 → Tr → L の経路で流れ、インダクタ L には電磁エネルギーが蓄積される。
次に、Tr をOFFした場合、インダクタ L に蓄えられている電磁エネルギーによって電流 i2 がコンデンサ C と負荷 R に流れる。
このとき、TON・TOFF における各部の電圧、電流の波形は以下のようになる。
また、出力電圧 VR は次のように表される。
k は 0 ≦k<1.0 の範囲で変化する。0≦k<0.5 で降圧、0.5<k<1.0 で昇圧、k=0.5 で V1=VR となる。また、昇降圧チョッパ回路では入力電圧と出力電圧が反転する。
まとめ
直流チョッパ回路とは、直流電圧をスイッチのON/OFFによって切り刻んで他の大きさの直流電圧に変換する回路のことである。
■ 降圧チョッパ回路
降圧チョッパ回路は出力電圧を下げる直流チョッパ回路である。電源電圧 V1 に対して出力電圧 VR は以下のようになる。
通流率≦1 となるので、VR は V1 より小さくなり、降圧する。
■ 昇圧チョッパ回路
昇圧チョッパ回路は出力電圧を上げる直流チョッパ回路である。電源電圧 V1 に対して出力電圧 VR は以下のようになる。
通流率≧1 となるので、VR は V1 より大きくなり、昇圧する。
■ 昇降圧チョッパ回路
昇降圧チョッパ回路は TON・TOFF の値よって降圧動作も昇圧動作も可能な直流チョッパ回路である。電源電圧 V1 に対して出力電圧 VR は以下のようになる。
k は 0≦k<1.0 の範囲で変化する。0≦k<0.5 で降圧、0.5< k<1.0 で昇圧、k=0.5 で V1=VR となる。昇降圧チョッパ回路では入力電圧と出力電圧が反転する。
参考文献:
深尾正 『電気機器・パワーエレクトロニクス通論』 オーム社
粉川昌巳 『絵ときでわかるパワーエレクトロニクス』 オーム社
尖った電流を平らに均す『平滑コンデンサ 』
はじめに
以前こちらの記事で、インバーターの電力変換の原理を解説した際に平滑コンデンサという正体不明のコンデンサが回路図中に登場した。
しかし本文ではその役割については一切触れていなかった。そこで今回は、満を持してこの “平滑コンデンサ” の役割について解説していく。
電圧型インバーター
EVの駆動用に限らず、あらゆる家電・動力系用途において(電流型ではなく)電圧型インバーターが一般的である。理由は単純で、一定電流よりも一定電圧を用意する方が簡単であり、制御が容易だからである。ここで、電圧型三相インバーターの回路図を以下に示す。
電圧型インバーターは、直流電源の電圧をパワー半導体を介してそのまま出力に伝達する構成をとっており、直流電源と並列に大容量のコンデンサが接続されている。このコンデンサこそが、今回の主役 “平滑コンデンサ” である。
平滑コンデンサの役割
① バッテリーからの出力電圧を一定に保つ
パワー半導体がOFFになった直後、モーターのインダクタンスによって電流は今までと同じ方向に流れようとし、このとき逆流電流が還流ダイオードを通って直流電源へと帰還してくる。このような電流の不連続的な変化に関係なく、バッテリーからの出力電圧を一定に保つために、平滑コンデンサを直流電源と並列に接続することによって電源のインピーダンスを下げ、電圧源特性を持たせている。
② サージによるスイッチング素子の破壊を防ぐ
インバーターでの電力変換の際、スイッチのON/OFFが頻繁に切り替わるので、バッテリーから供給される直流電流はパルス状になり、その際にサージ電圧が発生してしまう。平滑コンデンサは、コンデンサの充放電の特性を活かしてこのパルス状の電流を平滑化し、発生するサージ電圧を抑え、素子の破壊を防いでいる。
■ サージ
異常な大きさの電流または電圧が瞬間的に発生することをサージといい、このとき流れる電流がサージ電流、電圧がサージ電圧である。※ちなみに、持続時間がナノ秒~マイクロナノ秒のものはスパイクと表現され、ミリ秒単位のものがサージと呼ばれている。ここで、誘導性負荷によって引き起こされるサージ電圧は以下のような式で表される。
LS はバッテリーからインバーターまでの配線の浮遊インダクタンス、VCC は電源電圧、di/dt は電流の時間変化を表している。平滑コンデンサは、スイッチOFF時の電流の変化 di/dt を緩やかにし(平滑化)、過大なサージ電圧 VCEP によるスイッチング素子の破壊を防いでいる。
③ 放射ノイズの低減
電流がパルス状に流れると、配線からは様々な周波数成分を持ったノイズが放射される。これらのノイズはカーラジオなどの車載機器に障害を与えてしまう。そこで、平滑コンデンサによりパルス状の電流を平滑化することで、発生する放射ノイズを低減している。
まとめ
電圧型インバーターにおいて、直流電源と並列に接続されている平滑コンデンサは、以下のような役割を担っている。
① バッテリーからの出力電圧を一定に保つ
② サージによるスイッチング素子の破壊を防ぐ
③ 放射ノイズの低減
参考文献:
深尾正 『電気機器・パワーエレクトロニクス通論』 オーム社
EnergyChord 『電圧形インバータと電流形インバータ』
日経XTECH 『コンデンサーで電流を平滑化』 山田好人 株式会社デンソー
EVにおけるパワー半導体の種類と特徴
はじめに
こちらの記事で、パワー半導体(トランジスタ)の動作原理を、代表的なトランジスタである バイポーラトランジスタ (Bipolar Junction Transistor; BJT) を例に挙げて解説を行った。
バイポーラトランジスタにはスイッチング速度が遅いという弱点があり、EV駆動用のインバーターのパワー半導体としてはあまり使われておらず、代わりに MOSFET, IGBT というトランジスタが使用されることが多い。今回はこの MOSFET, IGBT のそれぞれの特徴について解説していく。
MOSFET(金属酸化膜半導体FET)
バイポーラトランジスタは、ベース電流によってコレクタ電流を制御する電流制御型のトランジスタであった。これに対して、加える電圧によって出力電流を制御する電圧制御型のトランジスタを 電界効果トランジスタ (Field Effect Transistor) 、略して FET という。また、MOSFETの “MOS” は 金属酸化膜半導体 (Metal Oxide Semiconductor) の略で、ゲートの半導体のシリコン表面を酸化させ、二酸化シリコン膜 (SiO2)を生成し絶縁層とした構造をとっている。MOSFETは、消費電力が少なく、スイッチング速度が非常に速いが、高耐圧になるとオン抵抗が高くなってしまうといった特徴がある。
ここで、Nチャンネル型MOSFET(エンハンスメント型)の構造を以下に示す。※他にもPチャンネル型/ デプレッション型も存在するが、市場で使用されるMOSFETの大半がNチャネル型のエンハンスメント型である。
MOSFETには “ゲート”, “ドレイン”, “ソース” の3つの端子がある。Nチャネル型は導通時にドレイン-ソース間にNチャネル領域を有している状態になる。MOSFETのゲートの金属直下は絶縁層、そして半導体の三層構造となっており、絶縁層が誘電体層として働く平行平板コンデンサとみなすことができる。この部分を MOSキャパシタ と呼ぶ。
ここで、ゲートに+、ソースに-の電圧を加えると以下のような現象が起こる。
ゲート直下は絶縁層が誘電体層として働く平行平板コンデンサとみなすことができるので、ゲート電圧によってP型半導体中の少数キャリア(電子)が絶縁層付近に誘起される。これによって、上の図のようにドレイン-ソース間に電子よるNチャネル領域が形成される。
この状態でさらに、ドレイン側に+、ソース側に-の、先ほどよりも高い電圧を加えると以下のようになる。
チャンネルが形成されたことにより、ドレイン-ソース間はN型半導体のみの状態となる。よって、ドレイン-ソース間のN型半導体内を電子が移動できるようになるので、ドレインからソースに向かってドレイン電流IDが流れる。
すなわち、ソースに対してゲートに正の電圧を印加することによって、ドレイン-ソース間に本流が流れるようになる。これが、MOSFETがONになる原理である。
IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)
IGBT は 絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ (Insulated Gate Bipolar Transistor) の略で、バイポーラトランジスタのゲートとしてMOSFETを組み込んだ複合素子である。これによってIGBTはバイポーラトランジスタとMOSFETの良さを兼ね備えており、MOSFETには劣るもののバイポーラトランジスタよりスイッチング速度が速く、高耐圧でもオン抵抗が低いといった特徴があり、スイッチング素子の中心的な存在となっている。
ここで、Nチャンネル型IGBT の構造を以下に示す。※他にもPチャンネル型が存在するが、市場で使用されるIGBTの大半がNチャネル型である。
IGBTには “ゲート”, “コレクタ”, “エミッタ” の3つの端子がある。Nチャネル型はエミッタがN型半導体、コレクタがP型半導体で構成されている。MOSFETと同様にゲートが絶縁層によって絶縁されている。(MOSキャパシタ)
ここで、ゲートに+、エミッタに-の電圧を加えると以下のような現象が起こる。
ゲート電圧によって、P型半導体中の少数キャリア(電子)が絶縁層付近に誘起され、電子よるNチャネル領域が形成される。
この状態でさらに、コレクタ側に+、エミッタ側に-の、先ほどよりも高い電圧を加えると以下のようになる。
チャンネルが形成されたことによって、コレクタ-エミッタ間はPN接合となり、コレクタからエミッタに向かってコレクタ電流ICが流れる。
すなわち、エミッタに対してゲートに正の電圧を印加することによって、コレクタ-エミッタ間に本流が流れるようになる。これが、IGBTがONになる原理である。
まとめ
バイポーラトランジスタ (BJT)、MOSFET、IGBTを比較すると以下のようになる。
BJT | MOSFET | IGBT | |
端子 |
ベース コレクタ エミッタ |
ゲート ドレイン ソース |
ゲート コレクタ エミッタ |
制御 | ベース電流 | ゲート電圧 | ゲート電圧 |
許容電流 | 〇 | △ | ◎ |
スイッチング速度 | △ | ◎ | 〇 |
オン抵抗 | 〇 | △ | ◎ |
■ バイポーラトランジスタ (BJT)
代表的なパワー半導体。高耐圧でもオン抵抗が低いという利点があるが、消費電力が大きく、スイッチング速度が遅い。EV駆動用のインバーターにはあまり用いられない。
■ MOSFET
バイポーラトランジスタの電流制御型とは異なり、電圧制御型のトランジスタ。消費電力が少なく、スイッチング速度が速い。ただし、高耐圧になるとオン抵抗が高くなってしまう。SiC半導体と相性が良い。
■ IGBT
バイポーラトランジスタのゲートとしてMOSFETを組み込んだ複合素子。バイポーラトランジスタとMOSFETの良さを兼ね備えており、高耐圧でもオン抵抗は低く抑えられ、スイッチング速度はMOSFETには及ばないものの、バイポーラトランジスタよりは速い。Si半導体のスイッチング素子の中心的な存在となっている。
参考文献:
粉川昌巳 『絵ときでわかるパワーエレクトロニクス』 オーム社
半導体デバイス教科書執筆プロジェクト 『入門者へのフリー教科書』 廣瀬文彦 山形大学
Electrical Information 『トランジスタの『種類』と『特徴』について!』
パワー半導体のスイッチングの原理について
はじめに
以前解説した通り、EVのモーターを制御しているのはインバーターであり、インバーターが電力変換を行う上で欠かせない存在が パワー半導体 である。つまり、EVはパワー半導体によって動かされている と言っても過言ではない。
そもそも、パワー半導体はどのような仕組みでスイッチのON/OFFを切り替えているのだろうか。今回はそんなパワー半導体の原理について解説していく。
パワー半導体(トランジスタ)の原理
これまで、インバーターを構成するスイッチング素子を広義の “パワー半導体” と表現してきたが、パワー半導体の中でもスイッチング素子として用いられるものは “トランジスタ” と呼ばれることが多い。
ここからは、代表的なトランジスタである バイポーラトランジスタ (Bipolar Junction Transistor; BJT) を例に挙げて、トランジスタの動作原理の解説を行う。ここで、NPN型バイポーラトランジスタ の構造を以下に示す。※PNP型も存在するがNPN型の方が一般的である。
バイポーラトランジスタには “ベース”, “コレクタ”, “エミッタ” の3つの端子がある。NPN型はエミッタがN型半導体、ベースがP型半導体、コレクタがN型半導体で構成されている。また、ベースのP型半導体は極めて薄いものである。P型半導体とN型半導体を接触させると、接合面で正電荷と負電荷の電気的中立を保つため、P型の正孔をN型の電子が埋めて、稼働する電荷が無い安定した領域ができる。この領域を 空乏層 と呼ぶ。
ここで、ベースに+、エミッタに-の電圧を加えると以下のような現象が起こる。
ベースの正電荷(正孔)がエミッタ方向に移動し、エミッタの負電荷(電子)がベース方向に移動する。すると、空乏層が狭くなり、正電荷と負電荷が出会って再結合を始める。この再結合が連続して起こり、ベースからエミッタに向かって電流が流れる。
この状態でさらに、コレクタ側に+、エミッタ側に-の、先ほどよりも高い電圧を加えると以下のようになる。
エミッタ側からベース側に向かって電子が流れ込み、ベース側の正孔と結びついたものは ベース電流 となる。しかし、ベースの厚さは非常に薄く、流れ込んだ電子のほとんどはベース層を突き抜けコレクタ内に拡散し、コレクタ電流となる。
すなわち、ベース-エミッタ間に微小な電流を流すことによって、コレクタ-エミッタ間に本流が流れるようになる。これがバイポーラトランジスタがONになる原理である。
インバーターとゲートドライブ回路
ここまで解説してきた通り、トランジスタは指でスイッチを叩く代わりに、電気信号によってスイッチのON/OFFを切り替えることができる。インバーターを構成するトランジスタに対して、このスイッチON/OFFの電気信号を送る回路を ゲートドライブ回路 と呼ぶ。
※ここまで、バイポーラトランジスタを例に挙げて原理の解説を行ってきたが、インバーターのスイッチング素子には MOSFET, IGBT というトランジスタが使用されることが多い。MOSFET, IGBT の場合 “ベース” は “ゲート” となり、ベース電流ではなくゲート電圧で駆動する。
以下に、トランジスタの回路図中の記号と、ゲートドライブ回路を含めた三相インバーターの回路図を示す。
ゲートドライブ回路は、目標とする出力に対して、電流・モーター角・モーター角速度などといった情報を制御回路(マイコン)が処理し、そこから生成されたゲート駆動信号をもとに、インバーターを構成する各トランジスタを適切にON/OFFする役割を担っている。
まとめ
パワー半導体(トランジスタ)は指でスイッチを叩く代わりに、電気信号によってスイッチのON/OFFを切り替えることができる。
インバーターを構成するトランジスタに対しては、ゲートドライブ回路が各トランジスタを適切にON/OFFする役割を担っている。
参考文献:
粉川昌巳 『絵ときでわかるパワーエレクトロニクス』 オーム社