EVの効率を飛躍的に向上させるSiCへの期待
はじめに
以前解説した通り、EVのモーターを制御するのは インバーター であり、そのインバーターの要となる存在が パワー半導体 である。EVの性能はパワー半導体が左右すると言っても過言ではない。
従来のパワー半導体には シリコン(Si)半導体 が使用されてきた。ところが、2017年、TESLA が新型車両 Model3 に搭載されるインバーターに、量産EVとしては世界で初めて 炭化ケイ素(SiC)半導体 を使用したことで話題を集めた。今回はこのEVの性能を飛躍的に向上させると期待が高まる SiC半導体 について解説していく。
Si と SiC の違い
そもそも、Si と SiC は名前こそ似ているが全く異なる材料である。材料が異なるということは物性も異なる。以下にSiとSiCのそれぞれの特徴をまとめた。
■ シリコン(Si)
地球上にありふれた元素。安定したダイヤモンド構造をしていて、半導体の材料として重宝される。
■ 炭化ケイ素(SiC)
シリコン(Si)と炭素(C)で構成される化合物半導体材料。シリコンに比べ更に結合力が強く、熱的、化学的、機械的に安定している。SiCには様々な結晶多系があり、中でも 4H-SiC がパワーデバイス向けに最適とされている。
特 性 | Si | 4H-SiC | 単 位 |
結晶構造 | ダイヤ | 六方晶 | - |
バンドギャップ:Eg | 1.12 | 3.26 | eV |
電子移動度:μn | 1400 | 900 | cm^2/Vs |
正孔移動度:μp | 600 | 100 | cm^2/Vs |
破壊電界強度:EB | 0.3 | 3 | (V/cm)*10^6 |
熱伝導率 | 1.5 | 4.9 | W/cmK |
飽和ドリフト速度:Vs | 1 | 2.7 | (cm/s)*10^7 |
比誘電率:εS | 11.8 | 9.7 | - |
p,n制御 | ○ | ○ | - |
熱酸化物 | ○ | ○ | - |
上の表はSiと4H-SiCの物性値を比較したものである。表より、SiCは バンドギャップ がSiの約3倍であり、破壊電界強度 に関しては約10倍である。SiCはこれらの特性からモーター駆動などの高耐圧・大電流用途でSiよりも有利となる。
その理由に関しては事項で詳しく解説する。
なぜ SiC が良いのか
■ バンドギャップが広いメリット
バンドギャップは動作上限温度を左右する重要な特性である。温度が上昇すると熱エネルギーによって電子が遷移するという現象が生じる。バンドギャップが広いSiCでは、電子が遷移するためにより高い熱エネルギーが必要になるので、高温動作が可能になる。
■ 破壊電界強度が高いメリット
通常、耐圧を高くする場合 ドリフト層 を厚くする場合がある。しかしドリフト層を厚くすると抵抗が大きくなる。破壊電界強度が高いSiCは高耐圧化の際にSiに比べ薄い膜厚で済む。膜厚が薄いと単位面積あたりのオン抵抗が小さくなり、電力損失低減へと繋がる。
まとめ
SiC半導体には以下のような特徴があり、Si半導体と比較すると 低損失、高耐圧 で 高温作動が可能 である。インバーターのパワー半導体にSiCを採用することによってEVの効率を飛躍的に向上させると期待されている。
SiC半導体の特徴:
■ バンドギャップが広い
■ 破壊電界強度が高い
SiC半導体は、スイッチング速度は速いが高耐圧になるとオン抵抗が高くなってしまう MOSFETと相性が良い。
参考文献:
Motor Fan illustrated Vol.182 『EVの作り方』 三栄
粉川昌巳 『絵ときでわかるパワーエレクトロニクス』 オーム社