えびせんの学習記録

勉強した内容を自分向けに書き留めていくブログ。読み返す気が失せるので式や計算はなるべく省略。

電圧を切り刻む『直流チョッパ回路』の仕組み

はじめに

EVに限らず、自動車には様々な車載機器が搭載されており、これらを駆動するためには一つの電源からさまざまな直流電圧(12V、5V、3.3V、2.5V、1.8V、1.3V、1.0V、0.8V…)を得る必要がある。このように、直流 (DC) を異なる電圧の直流 (DC) に変換する装置はDC-DCコンバータと呼ばれる。DC-DC変換には様々な方式が存在するが、代表的な方式として直流チョッパ回路方式が挙げられる。今回はこのDC-DC変換の基本となる、直流チョッパ回路の仕組みについて解説していく。

直流チョッパ回路とは

直流チョッパ回路とは、直流電圧をスイッチのON/OFFによって切り刻んで他の大きさの直流電圧に変換する回路のことである。※チョッパ (chopper) とは “切り刻むもの” という意味である。以下に、直流チョッパ回路の回路図を簡略化したものを示す。

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DCチョッパ回路

直流電源に負荷と直列にスイッチを接続し、スイッチをONしている時間とOFFしている時間の比を変化させると、負荷に加わる平均電圧を変化させることができる。スイッチのON/OFFは非常に高速に行われるので、出力電圧はほぼ直流に近い形になる。

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出力電圧の調整

このとき、出力電圧V0は次のように表される。

V_{R}=\dfrac{T_{ON}}{T_{ON}+T_{OFF}}V_{1}

TON/(TON+TOFF) 通流率という。上の式では 通流率≦1 となるので、出力電圧 VR は電源電圧 V1 より小さくなる。このようなDCチョッパ回路を 降圧チョッパ回路 という。この他に、出力電圧を電源電圧よりも大きくする 昇圧チョッパ回路 、これら二つを組み合わせた 昇降圧チョッパ回路 が存在する。

降圧チョッパ回路

降圧チョッパ回路は、出力電圧を下げる直流チョッパ回路である。以下に、降圧チョッパ回路の回路図を示す。

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降圧チョッパ回路

インダクタ L は出力電流を平滑化するためのもの、ダイオード D はスイッチング素子 Tr を保護するための還流ダイオードである。

Tr がONの間、電流 i 直流電源 Tr L 負荷 R の経路で流れ、インダクタ L には電磁エネルギーが蓄積される。

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スイッチON

次に、Tr をOFFした場合、L のインダクタンスによって電流はこれまでと同じ方向へ流れ続けようとする。これによって、L 負荷 R D の経路で循環電流 iが流れる。

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スイッチOFF

このとき、TON・TOFF における各部の電圧、電流の波形は以下のようになる。

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各部の波形

出力電圧 VR は次のように表される。

V_{R}=\dfrac{T_{ON}}{T_{ON}+T_{OFF}}V_{1}

通流率≦1 となるので、出力電圧 VR は電源電圧 V1 より小さくなり、降圧する。

昇圧チョッパ回路

昇圧チョッパ回路は、出力電圧を上げるDCチョッパ回路である。以下に、昇圧チョッパ回路の回路図を示す。

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昇圧チョッパ回路

コンデンサ C は出力電圧を平滑化するためのもの、ダイオード D コンデンサ Tr を通じて放電してしまわないようにする放電防止用のダイオードである。

Tr がONの間、電流 i1 直流電源 L Tr の経路で流れ、インダクタ L には電磁エネルギーが蓄積される。

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スイッチON

次に、Tr をOFFした場合、L に蓄えられていた電磁エネルギーが電源電圧 V1 に加算され、電流 i2 ダイオード D を通ってコンデンサ C と負荷 R に流れる。

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スイッチOFF

このとき、TON・TOFF における各部の電圧、電流の波形は以下のようになる。

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各部の波形

また、出力電圧 VR は次のように表される。

V_{R}=\dfrac{T_{ON}+T_{OFF}}{T_{OFF}}V_{1}

通流率≧1 となるので、出力電圧 VR は電源電圧 V1 より大きくなり、昇圧する

昇降圧チョッパ回路

昇降圧チョッパ回路は、TON・TOFF の値によって降圧動作も昇圧動作も可能な直流チョッパ回路である。以下に、昇降圧チョッパ回路の回路図を示す。

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昇降圧チョッパ回路

コンデンサ C は出力電圧を平滑化するためのもの、ダイオード D は電源と負荷 R が短絡するのを防ぐためのものである。

Tr がONの間、電流 iL 直流電源 Tr L の経路で流れ、インダクタ L には電磁エネルギーが蓄積される。

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スイッチON

次に、Tr をOFFした場合、インダクタ L に蓄えられている電磁エネルギーによって電流 i2 コンデンサ C と負荷 R に流れる。

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スイッチOFF

このとき、TON・TOFF における各部の電圧、電流の波形は以下のようになる。

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各部の波形

また、出力電圧 VR は次のように表される。

V_{R}=\dfrac{T_{ON}}{T_{OFF}}V_{1}=\dfrac{T_{ON}/T}{1-T_{OFF}/T}V_{1}=\dfrac{k}{1-k}V_{1}

k 0 ≦k<1.0 の範囲で変化する。0≦k<0.5 で降圧0.5<k<1.0 で昇圧k=0.5 V1=VR となる。また、昇降圧チョッパ回路では入力電圧と出力電圧が反転する

まとめ

直流チョッパ回路とは、直流電圧をスイッチのON/OFFによって切り刻んで他の大きさの直流電圧に変換する回路のことである。

■ 降圧チョッパ回路

降圧チョッパ回路は出力電圧を下げる直流チョッパ回路である。電源電圧 V1 に対して出力電圧 VR は以下のようになる。

V_{R}=\dfrac{T_{ON}}{T_{ON}+T_{OFF}}V_{1}

通流率≦1 となるので、VR は V1 より小さくなり、降圧する。

■ 昇圧チョッパ回路

昇圧チョッパ回路は出力電圧を上げる直流チョッパ回路である。電源電圧 V1 に対して出力電圧 VR は以下のようになる。

V_{R}=\dfrac{T_{ON}+T_{OFF}}{T_{OFF}}V_{1}

通流率≧1 となるので、VR  V1 より大きくなり、昇圧する。

■ 昇降圧チョッパ回路

昇降圧チョッパ回路は TON・TOFF の値よって降圧動作も昇圧動作も可能な直流チョッパ回路である。電源電圧 V1 に対して出力電圧 VR は以下のようになる。

V_{R}=\dfrac{T_{ON}}{T_{OFF}}V_{1}=\dfrac{T_{ON}/T}{1-T_{OFF}/T}V_{1}=\dfrac{k}{1-k}V_{1}

k 0≦k<1.0 の範囲で変化する。0≦k<0.5 で降圧、0.5< k<1.0 で昇圧、k=0.5 で V1=VR となる。昇降圧チョッパ回路では入力電圧と出力電圧が反転する。

 

参考文献:

深尾正 『電気機器・パワーエレクトロニクス通論』 オーム社

粉川昌巳 『絵ときでわかるパワーエレクトロニクスオーム社