『熱電対』の原理とその選び方
はじめに
温度変化は、物質の特性を変化させる主たる要因のひとつである。逆に考えると、ある物質の特性の変化を計測するとその時の温度変化が求まるということである。工業用で最も多く使われている温度センサに、熱電対というものがある。今回はこの熱電対の原理について詳しく解説していく。
ゼーベック効果
図1に関して、二種類の均質な金属導体 A, B で閉回路を作り、測温接点の温度をT1、基準接点の温度をT2とするとき、以下のような現象が起こる。
・T1 > T2 なら回路に電流iが流れる
・T1 = T2 なら流れない
・T1 < T2 なら逆向きの電流iが流れる
これをゼーベック効果という。
電流が流れるということは、起電力が発生しているということであり、これを熱起電力という。熱起電力の大きさは2種類の導体の材質(A, B)と接合点の温度(T1, T2)で決まる。
熱起電力
熱起電力について詳しくみてみると、ペルチェ効果によるものと、トムソン効果によるものとの和とみることができる。それぞれ順を追って解説していく。
■ ペルチェ効果
ペルチェ効果とは、異なる金属や半導体を接合し、そこに電圧をかけて電流を流すと熱の吸収(冷却)・放熱(発熱)が起こる現象である。ここで、図2の閉回路でのペルチェ効果によって発生する熱起電力E1は、以下の式で表される。
E1=ΠAB*T1+ΠBA*T2=ΠAB*T1-ΠAB*T2
※ΠABは金属A, Bに対するペルチェ係数
■ トムソン効果
トムソン効果とは、同種の金属内において温度勾配がある場合、そこに電流を流すと、+側が放熱・-側が吸熱を生じさせる現象である。ここで、図2の閉回路でトムソン効果によって発生する熱起電力E2は、以下の式で表される。
E2=μA(T2-T1)+μB(T1-T2)+(μB-μA)T1-(μB-μA)T2
※μA, μBは金属A、金属Bのトムソン係数
熱起電力=ペルチェ効果+トムソン効果 なので、熱起電力Eは以下の式で表される。
E=E1+E2=ΠAB(T1-T2)+(μB-μA)(T1-T2)
ΠAB, μA, μB は金属の材質で定まるので、E は T1, T2 のみで決まる関数となる。つまり上式より、熱起電力Eを測定すれば、T1, T2 が求まることがわかる。
熱電対
熱電対は、前述のゼーベック効果により測温接点T1の温度と基準接点T2の温度差ΔTで発生する電圧を測定し、ΔTを知ることができるものである。ΔTから本当に知りたいT1を求めるために、以下のような二つの方法がある。
① 基準接点(T2)を0℃にして温度を直読する方法(冷接点補償)
② 基準接点(T2)の気温を測り温度差ΔTに加算する方法(基準接点補償)
①ように冷接点を測定中0°Cに維持するのはとても大変であり、現実的ではない。そこで、②のように端子付近の温度を測定しそこを基準とする、基準接点補償という方法が一般的である。
また、熱電対には二種類の金属の組み合わせ方で以下の8種類がある。
+極 | -極 | 測定範囲 | |
B型 | 白金ロジウム合金 (ロジウム30%) |
白金ロジウム合金 (ロジウム6%) |
+600℃ ~ +1700℃ |
R型 | 白金ロジウム合金 (ロジウム13%) |
白金 | 0℃ ~ +1100℃ |
S型 | 白金ロジウム合金 (ロジウム10%) |
白金 | +600℃ ~ +1600℃ |
N型 | ニッケル/クロム/ シリコンを主とした合金 |
ニッケル/シリコン を主とした合金 |
ー200℃ ~ +1200℃ |
K型 | ニッケル/クロム を主とした合金 |
ニッケル/アルミ を主とした合金 |
ー200℃ ~ +1200℃ |
E型 | ニッケル/クロム を主とした合金 |
銅/ニッケル を主とした合金 |
ー200℃ ~ +900℃ |
J型 | 鉄 | 銅/ニッケル を主とした合金 |
ー40℃ ~ +750℃ |
T型 | 銅 | 銅/ニッケル を主とした合金 |
ー200℃ ~ +350℃ |
この中で工業用としてよく用いられるのが、K型とT型である。K型熱電対は、他の貴金属熱電対と比較すると安価であり、耐熱・耐食性も高い。T型熱電対は、低温領域 (-200℃~+300°C) の起電力特性が良く、低温領域を精度良く測定したい場合に活躍する。
まとめ
■ ゼーベック効果
二種類の均質な金属導体で閉回路を作りさらにそこに温度差があると、熱起電力が発生するという現象。熱起電力=ペルチェ効果+トムソン効果
■ 熱電対
ゼーベック効果により発生した電圧を測定し、ΔTを知ることができるもの。金属の組み合わせ方で計8種類の熱電対が存在し、中でもK型熱電対とT型熱電対が一般的である。
参考文献: