えびせんの学習記録

勉強した内容を自分向けに書き留めていくブログ。読み返す気が失せるので式や計算はなるべく省略。

EVにおけるパワー半導体の種類と特徴

はじめに

こちらの記事で、パワー半導体トランジスタ)の動作原理を、代表的なトランジスタである バイポーラトランジスタ (Bipolar Junction Transistor; BJT) を例に挙げて解説を行った。

denden-mushi.hatenablog.jp

バイポーラトランジスタにはスイッチング速度が遅いという弱点があり、EV駆動用のインバーターのパワー半導体としてはあまり使われておらず、代わりに MOSFET, IGBT というトランジスタが使用されることが多い。今回はこの MOSFET, IGBT のそれぞれの特徴について解説していく。

MOSFET(金属酸化膜半導体FET)

バイポーラトランジスタは、ベース電流によってコレクタ電流を制御する電流制御型のトランジスタであった。これに対して、加える電圧によって出力電流を制御する電圧制御型のトランジスタ 電界効果トランジスタ (Field Effect Transistor) 略して FET という。また、MOSFET MOS 金属酸化膜半導体 (Metal Oxide Semiconductor) の略で、ゲートの半導体のシリコン表面を酸化させ、二酸化シリコン膜 (SiO2)を生成し絶縁層とした構造をとっている。MOSFETは、消費電力が少なくスイッチング速度が非常に速いが、高耐圧になるとオン抵抗が高くなってしまうといった特徴がある。

ここで、Nチャンネル型MOSFETエンハンスメント型)の構造を以下に示す。※他にもPチャンネル型/ デプレッション型も存在するが、市場で使用されるMOSFETの大半がNチャネル型のエンハンスメント型である。

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Nチャンネル型MOSFETの構造

MOSFETには ゲート”, “ドレイン”, “ソース の3つの端子がある。Nチャネル型は導通時にドレイン-ソース間にNチャネル領域を有している状態になるMOSFETのゲートの金属直下は絶縁層、そして半導体の三層構造となっており、絶縁層が誘電体層として働く平行平板コンデンサとみなすことができる。この部分を MOSキャパシタ と呼ぶ。

ここで、ゲートに+、ソースに-の電圧を加えると以下のような現象が起こる。

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ゲート電圧印加

ゲート直下は絶縁層が誘電体層として働く平行平板コンデンサとみなすことができるので、ゲート電圧によってP型半導体中の少数キャリア(電子)が絶縁層付近に誘起される。これによって、上の図のようにドレイン-ソース間に電子よるNチャネル領域が形成される

この状態でさらに、ドレイン側に+、ソース側に-の、先ほどよりも高い電圧を加えると以下のようになる。

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ドレイン電流

チャンネルが形成されたことにより、ドレイン-ソース間はN型半導体のみの状態となる。よって、ドレイン-ソース間のN型半導体内を電子が移動できるようになるので、ドレインからソースに向かってドレイン電流IDが流れる

すなわち、ソースに対してゲートに正の電圧を印加することによって、ドレイン-ソース間に本流が流れるようになる。これが、MOSFETがONになる原理である。

IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ

IGBT 絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ (Insulated Gate Bipolar Transistor) の略で、バイポーラトランジスタのゲートとしてMOSFETを組み込んだ複合素子である。これによってIGBTはバイポーラトランジスタMOSFETの良さを兼ね備えており、MOSFETには劣るもののバイポーラトランジスタよりスイッチング速度が速く高耐圧でもオン抵抗が低いといった特徴があり、スイッチング素子の中心的な存在となっている。

ここで、Nチャンネル型IGBT の構造を以下に示す。※他にもPチャンネル型が存在するが、市場で使用されるIGBTの大半がNチャネル型である。

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Nチャンネル型IGBTの構造

IGBTには ゲート”, “コレクタ”, “エミッタ の3つの端子がある。Nチャネル型はエミッタがN型半導体コレクタがP型半導体で構成されている。MOSFETと同様にゲートが絶縁層によって絶縁されている。(MOSキャパシタ

ここで、ゲートに+、エミッタに-の電圧を加えると以下のような現象が起こる。

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ゲート電圧印加

ゲート電圧によって、P型半導体中の少数キャリア(電子)が絶縁層付近に誘起され、電子よるNチャネル領域が形成される

この状態でさらに、コレクタ側に+、エミッタ側に-の、先ほどよりも高い電圧を加えると以下のようになる。

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コレクタ電流

チャンネルが形成されたことによって、コレクタ-エミッタ間はPN接合となり、コレクタからエミッタに向かってコレクタ電流ICが流れる

すなわち、エミッタに対してゲートに正の電圧を印加することによって、コレクタ-エミッタ間に本流が流れるようになる。これが、IGBTがONになる原理である。

まとめ

バイポーラトランジスタ (BJT)、MOSFETIGBTを比較すると以下のようになる。

  BJT MOSFET IGBT
端子

ベース

コレクタ

エミッタ 

ゲート

ドレイン

ソース 

ゲート

コレクタ

エミッタ 

制御 ベース電流 ゲート電圧 ゲート電圧
許容電流  〇  △  ◎
スイッチング速度  △  ◎  〇
オン抵抗  〇  △  ◎

 

バイポーラトランジスタ (BJT)

代表的なパワー半導体。高耐圧でもオン抵抗が低いという利点があるが、消費電力が大きく、スイッチング速度が遅い。EV駆動用のインバーターにはあまり用いられない。

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バイポーラトランジスタ

MOSFET

バイポーラトランジスタの電流制御型とは異なり、電圧制御型のトランジスタ。消費電力が少なく、スイッチング速度が速い。ただし、高耐圧になるとオン抵抗が高くなってしまう。SiC半導体と相性が良い

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MOSFET

IGBT

バイポーラトランジスタのゲートとしてMOSFETを組み込んだ複合素子。バイポーラトランジスタMOSFETの良さを兼ね備えており、高耐圧でもオン抵抗は低く抑えられ、スイッチング速度はMOSFETには及ばないものの、バイポーラトランジスタよりは速い。Si半導体のスイッチング素子の中心的な存在となっている。

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IGBT

 

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参考文献:

粉川昌巳 『絵ときでわかるパワーエレクトロニクスオーム社

半導体デバイス教科書執筆プロジェクト 『入門者へのフリー教科書』 廣瀬文彦 山形大学

Electrical Information 『トランジスタの『種類』と『特徴』について!』

CoreContents 『MOSFETとは?どんな仕組みで、どのような魅力があるの?』

TechWeb 『IGBTの特徴:MOSFET、バイポーラトランジスタとの比較』