えびせんの学習記録

勉強した内容を自分向けに書き留めていくブログ。読み返す気が失せるので式や計算はなるべく省略。

インバーターでの電力変換の原理と発生する損失

はじめに

“損失の低減” はEVの性能向上を図る上で欠かせないキーワードである。以前、モーターで発生する損失要因については こちらの記事 で解説したが、モーター駆動の際にはインバーターの存在を忘れてはいけない※その理由に関しては こちらの記事 で解説している。

denden-mushi.hatenablog.jp

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インバーターはバッテリーから供給される直流を交流に変換する働きを担っているが、この電力変換時にも当然損失は発生する。この時に発生する主な損失要因として「導通損失」「スイッチング損失」「ダイオード損失(デッドタイム損失)」が挙げられる。今回はインバーターの電力変換の原理を解説しつつ、これらの損失の正体について解説していく。

電力変換の原理

まずは、インバーターでの電力変換の原理について解説する。一般的にEVのモーターの駆動には電圧型三相インバーターが用いられる。以下に回路図を示す。

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電圧型三相インバーターの回路図

電力変換の原理が分かりやすいように回路図を簡略化すると以下のようになる。

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インバーターの電力変換の原理

図の左側の状態ではバッテリーと負荷が順手でつながっており、右側の状態ではバッテリーと負荷が逆手でつながっている。インバーターこれら2つの状態を周期的に行き来することで負荷にかかる電圧の向きを周期的に反転させ交流を作り出している。この時上アーム/下アームの半導体バイスはそれぞれ対になっており、どちらかがONの時はもう片方は必ずOFFになっている(相補的スイッチング)

実際に三相インバーターでは、これらの動作を各相120°ずつ位相をずらして1周期6ステップで運転を行う。これを120°通電方式という。この時の電流の様子を以下に示す。

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120°導通方式

ここからは、上記のような電力変換時にインバーターで発生する損失導通損失」「スイッチング損失」「ダイオード損失(デッドタイム損失)について解説していく。

導通損失

導通損失とは、半導体バイスがON状態で電流が流れているときパワー半導体の内部抵抗で生じる損失

P=I^{2}\times R

スイッチング損失

スイッチング損失とは、パワー半導体がON/OFFするときに発生する損失

理想的には、パワー半導体のON/OFFは0秒で切り替わり、スイッチング時に電流と電圧が重なることはない。しかし、実際にはパワー半導体のON/OFFには立ち上がり時間/立ち下がり時間を要し、この間はパワー半導体に電圧がかかる&電流が流れるという状態となる。

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電流・電圧の波形とスイッチング損失

この立ち上がり/立ち下がり時間中の電流と電圧の重なりによってスイッチング損失が発生する。

ダイオード損失(デッドタイム損失)

ダイオード損失(デッドタイム損失)とは半導体バイスデッドタイム期間に、パワー半導体に逆並列で接続されている還流ダイオードに流れ込む電流によって生じる損失のことである。まずは「デッドタイム」「還流ダイオード」について順を追って解説していく。

短絡防止期間(デッドタイム

上下アームの半導体バイスが相補的にスイッチングする際、両サイドのスイッチが同時にON、または同時にOFFすることなくスイッチが切り替わるのが理想的である。しかしながら、実動作においてそれは困難であり、わざとあえて両サイドのスイッチが同時にOFFする期間を設けている。この期間をデッドタイムと呼ぶ。一瞬でも両サイドのスイッチが同時にON状態になってしまうと、バッテリーが短絡状態となり、大電流が流れてパワー半導体を破壊することになるので、これを避けるためである。

還流ダイオードの役割とダイオード損失

インバーターの回路図中で、パワー半導体と逆並列で接続されているダイオード還流ダイオードと呼ばれるものである。還流ダイオードーの役割を図示すると以下のようになる。

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還流ダイオードの役割

スイッチがOFFになった直後、電磁誘導の法則より、モーターコイルに流れる電流は今までと同じ方向に流れようとする。このとき還流ダイオードがあると、この逆流電流は還流ダイオードの方を通ってバッテリーの正端子へと帰還する。もし還流ダイオードが無いと、パワー半導体に負の高電圧が発生してパワー半導体が破壊される恐れがある。このように、還流ダイオードモーターから逆流してくる電流の逃げ道として機能する役割を担っている。

このとき、還流ダイオードの内部抵抗によって損失が生じ、これがダイオード損失(デッドタイム損失)となる

P=I^{2}\times R

まとめ

インバーターはパタパタと周期的にスイッチを切り替えることで直流を交流に変換している。三相インバーターの場合はこれらの動作を各相120°ずつ位相をずらして1周期6ステップで運転を行う(120°通電方式)。電力変換の際には以下のような損失が発生する。

導通損失

パワー半導体の内部抵抗で生じる損失

スイッチング損失

パワー半導体がON/OFFするときに発生する損失

ダイオード損失(デッドタイム損失)

デッドタイム期間中に還流ダイオードの内部抵抗で生じる損失

 

参考文献:

深尾正 『電気機器・パワーエレクトロニクス通論』 オーム社

見城 尚志, 佐渡 友茂 『メカトロニクスのモーター技術』 技術評論社

EnergyChord 『インバータの基本構造』

Electrical Information 『MOSFETのスイッチング損失とは?『計算方法』や『式』について』

デンソーテクニカルレビューVol.22 『デッドタイム制御機能内蔵 SiC MOSFET 用ゲートドライバの開発』 株式会社デンソー