PWM制御における『三相変調』と『二相変調』について
はじめに
EVに搭載されている三相インバーターは、バッテリーから供給される直流を交流に変換するという役割を担っている。その際に、単に直流を交流に変換するのではなく、出力をも自在にコントロールすることができる。
この時インバーターでは PWM (Pulse Width Modulation)(パルス幅変調)と呼ばれる制御が行われており、その中でも三相全てを変調する三相変調と、二相のみを変調する二相変調という二つの変調方式が存在する。そこで今回は、三相インバーターのPWM制御時における、これら二つの変調方式の違いについて解説していく。
PWM (Pulse Width Modulation)(パルス幅変調)
PWM(パルス幅変調)とは、直流電圧の入力からパルス列のONとOFFの一定周期を作り、ONの時間幅(パルス幅)を変化させる制御方法である。インバーターの出力電圧は、この時のONのパルス幅に比例する。これを周期的に変化させることにより、モーター駆動に最適な正弦波の交流電圧を作り出している。
三相変調
以下に三相インバーターの回路図を示す。
U, V, W 各相の出力電圧:VU, VV, VW
U, V, W 各相間電圧:VU-V, VV-W, VW-U
三相インバーターから出力される三相交流波形は、以下の二つの波形を基に作り出される。
・モーターの回転数に同期した周波数の信号波 “基準正弦波”
・スイッチング周波数を決定するキャリア周波数にて設定される “三角波変調波”
両波形のレベルを比較し、信号波値>三角波値 のとき、上アーム側のスイッチは “ON” になり、 VU, VV, VW が “High” になる。(このとき、上アームと下アームのスイッチは相補的にスイッチングしているので、下アーム側のスイッチは “OFF” になる)
ここで、モーターに供給される電圧は各相への入力電圧 VU, VV, VW の差となる(=相間電圧 VU-V, VV-W, VW-U )。このとき、各相間電圧VU-V, VV-W, VW-U は、信号生成時の基準正弦波と同じ周波数の波形となってモーターに供給される。
このように、三相が常に変調し各相の出力波形が正弦波状になる変調方式を、三相変調と言う。三相変調は制御の自由度が優れており、PWM制御の基本の方式となる。
二相変調
二相変調とは、基準正弦波の一周期のうち特定の一相だけをONもしくはOFFに固定し、他の二相を変調する方式のことである。二相変調の中にも、上下方式と呼ばれるもの、下方式と呼ばれるものが存在する。順を追って説明していく。
■上下方式
三相変調では、U相を基準とした時、V相は120°、W 相は240° 位相が遅れた正弦波信号を用いる。二相変調の上下方式では、各相 60°の期間は出力 “High” (上アーム常にON)になるタイミングと、 60°の期間は出力 “Low” (下アーム常にON) になるタイミングが発生する。以下に、このときの VU, VV, VW の電圧信号を示す。
上の図の通り、一周期の中で三相のうちどれか一相は “High” もしくは “Low” に固定されており、常時二相が変調される状態になる。
■下方式
二相変調の下方式では、三相のうち VU, VV, VW のパルス間隔の最も大きい相が停止相に選ばれ、その期間(120°) の間は出力 “Low” (下アーム常にON)に固定され 、他の二相を変調する状態になる。以下に、このときの VU, VV, VW の電圧信号を示す。
これらの二相変調方式では、パワー半導体のスイッチング回数が2/3に減少するため、スイッチング損失が低減される。また、最大線間電圧(電圧利用率)も向上するため、モーターの高回転時には二相変調方式が用いられる場合がある。さらに、下方式は、モーターの中性点電圧が三相変調方式と比較した場合最大で2/3となり、モータの信頼度向上に貢献する。
まとめ
インバーターは PWM (Pulse Width Modulation)(パルス幅変調)と呼ばれる制御で交流の出力をコントロールしている。その際 U, V, W 三相全てを変調する三相変調と、どれか二相のみを変調する二相変調という二つの変調方式が存在する。
■ 三相変調:三相が常に変調される状態。制御の自由度が優れている。
■ 二相変調:三相のうちどれか一相は High もしくは Low に固定されており常時二相が変調される状態。スイッチング回数が2/3になるのでスイッチング損失が低減される。最大線間電圧が上がる。(モーターの高回転時に有利)
参考文献: