モーターの高回転の為の『過変調動作』『1パルス動作』
はじめに
先日、モーターは高回転領域が苦手であるということについてこちらの記事で解説した。その際、弱め磁界制御という方法でモーターの最高回転速度を上げていると説明したが、この方法にはエネルギー変換効率が低下するという問題がある。そこで今回はモーターの最高回転速度を上げる別の方法である、インバーターの「過変調動作」「1パルス動作」について解説していく。
インバーターの出力電圧とPWM
モーターの最高回転速度はインバーターの出力電圧(駆動電圧)で決まる。しかし、モーターは回転すればするほど駆動電圧と逆向き発生する逆起電圧が高くなり、弱め磁界制御はこの逆起電力を弱めてしまおうという方法である。今回解説する「過変調動作」「1パルス動作」は弱め磁界制御とは視点が異なっており、モーターの高回転時にインバーターの駆動電圧を上げてしまおうという方法である。
インバーターはパタパタと周期的にスイッチを切り替えることで直流を交流に変換しているが、その際 PWM (Pulse Width Modulation)(パルス幅変調)と呼ばれる制御によって出力を可変している。通常は、歪みのない正弦波を生み出すことを目的に十分高いスイッチング周波数を設定し電力変換を行う。
この場合、歪みの少ない理想的な交流波形に近い正弦波を出力可能であるが、出力可能な交流電圧の振幅の上限は電源電圧の半分程度になってしまう。※PWMについてはこちらの記事で詳しく解説している。
しかし、正弦波の歪みの抑制を犠牲に方形波に近い電圧波形を取ることにより、インバーター出力電圧をさらに増加させることができる。このような動作状態を「過変調動作」「1パルス動作」と呼ぶ。
過変調動作・1パルス動作
以下に過変調動作・1パルス動作時のインバーターの出力電圧の波形を示す。
図の左のような状態を「過変調動作」、右のような完全に方形波になった状態を「1パルス動作」と呼ぶ。インバーターを過変調動作・1パルス動作させることにより、電源電圧を変更することなく駆動電圧を増加させることができ、モーターの高回転化が可能となる。特に1パルス動作時のような完全な方形波になると、出力電圧は最大で約1.27倍になる。しかしながら、過変調動作・1パルス動作時には出力電圧の正弦波に大きな歪みが生じるので、制御が煩雑になり、制御系が不安定化するといった問題点がある。
まとめ
PWMで歪みの少ない理想的な交流波形に近い正弦波を出力しようとした場合、出力可能な交流電圧の振幅の上限は電源電圧の半分程度
⇓
正弦波の歪みを犠牲に過変調動作・1パルス動作させることにより、電源電圧を変更することなく駆動電圧を増加させることができる
⇓
モーターの高回転化に貢献(ただし制御系は不安定化する)
参考文献: