えびせんの学習記録

勉強した内容を自分向けに書き留めていくブログ。読み返す気が失せるので式や計算はなるべく省略。

モーターで発生する損失『鉄損』と『銅損』

はじめに

EVの性能向上考えたとき、損失の低減が一つのキーワードとなってくる。実際にEVの駆動時にモーターで発生する主な損失として「銅損」「鉄損」が挙げられる。今回はこの「銅損」「鉄損」の正体について解説していく。

銅損

「銅損」とはモーターのコイルに電流が流れる際に、コイル巻き線の抵抗により生じる損失のことである。銅損の大きさは負荷の2乗に比例し、無負荷状態では銅損は発生しない。

P=I^{2}\times R

鉄損

「鉄損」は電気エネルギーを磁気にエネルギーに変換する際に生じる損失のことである。鉄損は「ヒステリシス損」「渦電流損」から成る。

ヒステリシス損

鉄心を磁化する際に発生する損失を“ヒステリシス損”という。

鉄心に電線を巻き付け、巻き線に電流を流すと電磁石になるということは、よく知られてることである。鉄心の内部には、非常に小さな磁石(分子磁石)がたくさん存在すると考えることができ、巻き線に電流を流すと磁界[H]が鉄心に発生。この磁界による磁力で鉄心内部の分子磁石の向きが段々と揃っていく。これを磁化と言う。

磁界を大きくすればするほど(電流をたくさん流すほど)分子磁石の向きはそろっていき、分子磁石の向きが揃えば揃うほど鉄心内部の磁束密度[B]が大きくなる。磁界を大きくし続けると、分子磁石の向きが全て揃った段階で鉄心内部の磁束密度が大きくならなくなる。この状態を磁気飽和という。

ここで、巻線に流している電流を0にする。電流が0(=磁界が0)になった段階で、実は鉄心内部の磁束密度は0にならない。これは、分子磁石の向きが完全にもとには戻らないからである。この時の磁束密度の大きさを残留磁束密度という。

鉄心の磁力を0に戻すためには逆向きの磁界をかける(逆向きの電流を流す)必要があり、これがヒステリシス損となる。この時の磁界の強さを保磁力といい、保磁力が大きいと磁力を0にするために強い磁界を掛ける必要がある。再度磁気飽和に至るまで逆向きの電流を流し、そこから再び鉄心の磁力を0にしようとした際にも、同様の現象が起こる。

ここまでの巻線が発生させる磁界[H]鉄心内部の磁束密度[B]の関係を図示すると、下図のようになる。

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ヒステリシスループ

上の図の赤で描かれた曲線をヒステリシスループといい、このヒステリシスループの面積が大きくなるほど、ヒステリシス損は大きくなる

渦電流損

鉄心内部に流れる渦電流によって生じる損失を“渦電流損”という。

巻線に交流電圧をかけると、電圧の大きさと向きは周期的に変化するので、巻線に流れる電流の大きさや向きもこれに合わせて変化する。すると、鉄心中の磁束の大きさと向きも同様に変化する。電磁誘導の法則により、鉄心内部には磁束の変化を妨げる方向に起電力が生じ、電流が流れる。これが渦電流である。ちなみに、渦電流損は電磁調理器(IH)が調理器具を発熱させるのと同じ原理である。モーターでは、鉄心に薄い鉄板を重ねたもの(積層鋼板)を使うことにより、渦電流が流れる経路を減らし、渦電流損を減少させている。

鉄損は磁界の変化が激しくなるモーターの高回転時に顕著になる。逆に、モーターが停止している状態では鉄損は発生しない。

まとめ

モーターで発生する主な損失は「銅損」「鉄損」である

鉄損は「ヒステリシス損」「渦電流損」から成る

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参考文献:

電検Tips 『鉄損とは?ヒステリシス損と渦電流損について分かりやすく解説』