モーターの得意なこと・苦手なこと
はじめに
EVの最大の特徴は、ガソリンエンジンがモーターに置き換わっているという点である。(HEVの場合は併用となる)どちらも、回転エネルギーを発生させ自動車を駆動するという役割を担っているが、その性格は若干異なる。そこで今回はこのEV用モーターの「得意なこと」「苦手なこと」について解説していく。
モーターの得意なこと
第一に、モーターは駆動時にガソリンエンジンのような騒音・振動を発生させないので車の乗り心地が非常に良くなる。
第二に、モーターは回転がゼロのところで電力を投入すると、回り始めた瞬間から最大トルクを発揮するといった特性があり、発進加速時の応答性に優れている。各自動車メーカーが自社の新型EVの“スポーティーで力強い加速感”をアピールしていることが多いのは、モーターのこの特性の恩恵を受けているからである。以下は、国産車最速と言われる日産のスポーツカー(ガソリンエンジン)とTESLAの新型高級セダン(モーター)の0-100km/hタイムを比較したものである。スケール感が伝わりづらいので、世界一の加速力を誇る富士急ハイランドのジェットコースターの加速タイムも併記してある。
■ TESLA ModelS Plaid (モーター)
■ 富士急 ド・ドドンパ (ジェットコースター)
第三に、モーターのエネルギー効率はガソリンエンジンをはるかに上回る。現在、エンジンの最大効率は40%強であるが、モーターで40%の効率を切ることはまずあり得ない。実際に、モーターの場合バッテリーからホイールまでのエネルギー効率はほとんどの領域で80~90%を超える。※このとき発生する損失についてはこの記事とこの記事で解説している。
モーターの苦手なこと
ここまではモーターの得意なことを挙げてきたが、ここからはモーターの苦手なことについて解説していく。一見、モーターには欠点が無く理想的な機械であると思い込んでしまうが、意外にもモーターは高回転領域が苦手である。
以前解説した通り、モーターの回転数=インバーターが作り出す回転磁界の回転数であるが、この回転磁界を高速で回せば回すほど(交流の周波数を上げれば上げるほど)、いくらでも高速化できるわけではない。モーターの高回転化を阻む要素として逆起電圧と呼ばれる現象の存在が挙げられる。手回し発電機を想像すれば解るように、モーターは回転すればするほど発電機としての働きが強くなる。回転すればするほど、インバーターから入力される電圧(駆動電圧)と逆向きに発生する逆起電圧は大きくなる。逆起電圧と駆動電圧の差が小さくなっていくにつれ電流は流れにくくなり、最終的にこれらが釣り合うと電流が流れなくなり、モーターの回転速度が頭打ちになってしまう。
ステーターコイルの巻き数を少なくして逆起電圧を抑えればこの問題を回避できるが、この方法では同時に得られるトルクも小さくなってしまう。高回転だけでなく、トルクも必要な自動車用途にこの方法をそのまま当てはめることは難しい。そこで、EV用のモーターでは弱め磁界と呼ばれる制御を行っている。※他にも二相変調や過変調・1パルス動作といった方法もある。これらについてはこの記事とこの記事で解説している。
■弱め磁界制御
上の図のように、磁石のNとSの境界線部分をq軸、磁極の部分をd軸と呼ぶ。q軸側の電磁石に電流を流すとトルクが発生するが、d軸側の電磁石に電流を流してもトルクは発生しない。d軸電流は流す方向によって磁石の磁界を弱めたり強めたりすることができる。この時、d軸電流によって磁石の磁界を弱くし、モーターの回転速度を上げる方法を弱め磁界制御という。
しかし、この方法にも副作用が伴う。弱め界磁に用いられるエネルギーはモーターの出力に寄与しないため、エネルギー効率は当然低下してしまう。さらに、モーターの高回転時には鉄損も大きくなるので、エネルギー効率低下に拍車をかけることとなり、総じてモーターは高回転領域が苦手といえる。
まとめ
EV用のモーターには以下のような特徴がある。
■ 駆動時に騒音・振動を発生させない 〇
■ 発進加速時の応答性に優れている 〇
■ エネルギー変換効率に優れている 〇
■ 高回転領域ではエネルギー効率が低下する ✕
参考文献:
Motor Fan illustrated Vol.184 『よくわかるモーター』 三栄